第5話 うわ、あいつあれが趣味なのか

「どうです?今回は流石に間違えてないでしょう?」

「そうですね、視界がクリアに見えます」

 天使はエッヘンとも言いたげなドヤ顔をしている。


「それで使い方って?」

「一度思い浮かべたい人、そうですね城戸崎さんの友人とか思い浮かべてみましょう、名前と特徴を言ってみてください」

「えっと、名前は佐々木空太、特徴は背が高い。これくらいで大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫だと思います! では、ゆっくりと目を閉じてください目を閉じて」

 ガイドに従い、ゆっくりと視界を瞼の裏側えと移す。

 黒いだけでなく、太陽光が瞼に差し込み、暗いオレンジ色が見える。


「一度深呼吸をして、落ち着いてからさっき言った情報を思い浮かべてください。」

 体にたまっていた息を吐きだして、代わりに新しい空気を肺いっぱいに取り込んでいく。それを何回か続けて、体中をリラックスさせる。

 佐々木空太、背の高い男。それ以上の事は決して思い出さない。


 太陽とは違う光が急激に目に入る。意識が何処かへ急降下していき、一瞬気を失ったかと思うと見慣れた友人の顔が目に入ってくる。


「佐々木だ」

 声が出た。天使の言う事を全く信じていなかったわけではないが、本当はちょっと違うんじゃないかとか、そんな邪推をしていた。

「どうです?使えました?」

「佐々木とその部屋が見えます」

「よかったぁ、成功したみたいですね!」

 報告を聞いた天使は、おろおろとした声から安堵した声へと音色を変えた。


「これって視点を動かしたり出来ないんですか? 佐々木が部屋から動いちゃったんですけど」

 確実にここでない場所が見えてはいるものの、視界は定点に張り付いたまま、監視カメラのようにピタリとも動かない。

 しかし、自分でも驚いたことに、そんな事が気になるほどに今の状況に落ち着いて受け入れている自分がいた。


「私自身その目を持っているわけじゃないので聞いた話なんですけど、目を動かすのではなく眼球を動かすイメージで想像すると動くらしいですよ!」

 アドバイスを聞き、目を覆う横隔膜ごと視点を移動させる。

 イメージ通りには動かない物の、難しいラジコン程度にはある程度移動することが出来た。おぼついている視点の移動をしながら佐々木の後を追いかける。


「うわ、佐々木の奴結構えぐい趣味してんな」

 見つけた佐々木は、携帯で○○サイトを開いている、友人の趣味にとやかく言う気はないが明日から見る目が変わってしまいそうだ。


「こら、城戸崎さんあんまり覗いちゃダメですよ。言い忘れてましたけど、城戸崎さんの考えは私分かりますから目を使って変なことをしようとしても私ちゃんと見てますからね!」

 僕のプライバシーを奪った天使が何かを言っている、しかし、こんな不思議なものを与えた以上は責任というものが付いて回るのだろう。

 何も言わずに彼女の言うとおりにすることにした。


「ある程度使い方分かりましたか?」

「はい、多分使えるようになったと思います」

「じゃあ、能力を使った時と同じように深呼吸をして目を開けてください。」

 ゆっくりと再び呼吸をして、明晰夢から覚めるように目を開く。


「お疲れさまでした、どうでした?」

「かなり不思議な体験でした。」

「城戸崎さんって順応性高いですよね、今日は能力を使ってもう疲れているでしょうから明日から私のお手伝いお願いしますね!」

 こちらがそれ以上口を開く前に天使の声は消えてしまった。

 確かにぐっと疲れたような気がする。

 昼寝から目覚めたばかりだというのに、体が睡眠を欲しがっているのが分かった。


 また、意識を飛ばし、布団に埋もれて一体化するかのように深い眠りへと付いた。

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俺じゃなくあいつを転生させてくれ! 仙次 @kotee_

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