建築の通用語の小話

月夜神楽

第1話

過去に面白かったエピソードを記載させていただこう。


※時代的に差別偏見と取られる記載も多少ありますが、過去での認識、時代考証ですのでご容赦を。


派遣の仕事を長くやっているといろいろな事に出会う。


皆で集まり建設現場に、専門業種には色々な専門用語が飛び交う。

現場に着くと仕事の振り分けで、技術職の専門の人はそれぞれ別れて作業を始める。




日雇いのスタッフも多く、即日現金払いのスタッフもいる。

これについては現在の派遣業がそれに近い仕事斡旋を行っている。


他にも手配師と呼ばれるスタッフが繁華街、ハローワークなどで人を集める。

手配師はまず声をかける。


「おまえさん、暇かそれとも仕事は?」と手配師が問いかける。


「今仕事が無いんですよ」と私が答える。


仕事が無いとわかると、飯の種を見つけたとばかりに聞いてくる。


「タバコ一服せんか」とタバコを差し出してくる。


「腹減ってないか?それとも喫茶店いくか?まあどこかで条件話そうか」


そこまでいけば、ほぼスタッフは決まったようなものだ。



建築の仕事は過去には、3Kと言われる仕事でした。

3Kとは(肉体的に又は精神的にきつい、きたなく汚れる、危険がともなう)



過去には、3Kの仕事は、ある程度コミュニケーションが問題なければ、働く機会が貰える場所であり、正当な報酬を受け取れる受け皿でもあった。


派遣の仕事はスタッフが、訳ありで逃げることもあり、続に「飛ぶ」とも言われる。

手配師が連れてきた日雇いや、期間雇いのスタッフも同じことが言える。


逃げる理由は、ブラックな職場、契約と違う、思ったよりきつい、賃金が違う、各種ハラスメント。


特殊な悪意のある労働者の場合、飯だけ食いにきて逃げるつもり、研修費用目的、窃盗目的などもあった。


本日は其の一幕で起きた、過去の出来事である。

ココではわかりやすく翻訳(口が悪い現場監督もおり解説が必要になるので)



現場監督から挨拶がある

「おはよう、今日も作業がんばってくれ、お?新人かよろしく」

「建築の現場は初めてか?なら時間かかるな、おいだれか教えてやってくれ。」


部下さんが監督に答える

「なら俺が教えたるわ、簡単な荷運びと残土処理やな」


建築現場では作業中に出る掘り起こした土で不要になったもの、これを残土と呼ぶ。


「よろしくお願いします」

私ともう一人の新人は返事をした、そして作業が始まる。


そのとき私も建築現場は初めてなので。二人そろって部下の話を聞いた。

新人同士で話しやすいこともあり色々趣味などの話もしていた。


作業現場によるが、材料が届かないと作業できない状況もあり、楽な現場だった。

ちなみに、現場とは作業をしている工事現場のことである。


作業が始まり暫くして、他の作業員が新人に声をかける。

「おい、新入りの一人、(ねこ)もってこい」


「はい、ぼくがとりに行ってきます。」

元気よく返事して新人君は現場を離れていった。


暫くして作業をしていると、もう一人の新人がなかなか帰ってこない。

二人で作業していたので気になり、部下さんに話をしてみた。

「もう一人の新人がいないのですが、他の作業してますか?」


もうすぐ昼になるので気になり聞いてみたのだ。


「ん?まだ帰ってきてないんか、これは飛んだ(逃げた)かな。」

「しかたない、お前一人でやってくれ」

部下さんはいつものことのようにあまり気にしていなかった。


作業は大変だった本来二人作業の計画が、二倍になるのだから。



更に時間は経ち作業も終わろうとしていたときに、新人君は帰ってきた。



部下さんはびっくりして新人君を問いただした。

「どこに行ってたんだ?お前がいなかったから、こいつ一人で作業してたぞ」


「探すのに手間取りまして、それでこんなに時間が経ってしまいました」

よく見ると新人君は汗だく、息も切れておりどこかでさぼってたように見えない。


「どこか他の作業でも指示されたのか?それなら仕方ないな」

部下さんも新人君の汗だくな表情をみて気になったようだ。


「(ねこ)を探すのに手間取りまして」

新人君は困惑した表情で部下さんに返事をしていた。


「(ねこ)はそこに有るやろ、ああ、猫とまちがえたのか」

部下さんはよくあることらしく納得した。


(ねこ)とはなにか。実は建築現場で使われる一輪車を現場ではネコと呼ぶ。

一輪車とは手押しの荷物運び道具で、車輪が大きく一つだけついた道具だ。

主にセメントや残土を運ぶのに使われる。



過去にも猫を捕まえてきた新人が多く何人かの里親に引き取られたらしい。

何匹も捕まえてきたつわものもいたそうだ。

また、分かった上で誤魔化すやつもいたらしい。



ただ部下さんはさらに驚愕することになる。

「猫連れてきたんか、仕方ないな説明不足でいつものことか。」

よくあることでまた、猫へのお詫びもあり。

「猫にミルクとパンぐらいは食わせたらんとな、猫はどこに?」


新人君は異なる返事をした。

「猫が中々捕まらなかったので、犬を連れてきました。」


「え?犬 猫じゃなくて犬かい」

部下さんが現場監督を呼びに行った。


その場の空気が固まった瞬間だった。


「犬なんかどこから連れてきた、返して来い」

「地域猫と違い犬はそこいらにおらん、逃げた可能性が高いどうするねん」

部下さんもさすがに困惑気味であった。


「まあ、警察に犬を連れて行って、拾得の話をするしかないやろうな」

監督も苦笑いするしかなかったようだった。




結局犬は迷い犬であった。


最終的に新人君に現場監督からの温情でバイト代は支払われた。


通用語とは難しいものだと改めて思った今日この頃である。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

建築の通用語の小話 月夜神楽 @kagura250

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ