第33話 山登り

「さて、エオストレ。」寝台に腰を掛けながらデルマはエオストレに話しかけた。

「あなたは見た目は小さな龍か巨大な角蜥蜴といったところだけど。」

「つ、角蜥蜴!?」エオストレが気分を害したように繰り返す。

「角蜥蜴ですって!この美しい翼を見て、よくそんなことが言えるわね!」

 エオストレはそういうと部屋いっぱいに白銀色に輝く美しい翼を広げると、優雅に羽ばたかせて白く輝く光の粒を振り撒いた。


「あぁ、羽があるのね。それじゃあ、やっぱり龍なのかしら。飛竜にしては少し胴体が飛行向きじゃなさそうだけど。」

デルマ自身、これまで飛竜であれば実際に見たことがあるものの、それも遠目だったし、ましてや龍それも古龍となると図鑑の挿絵でしか見たことがない。しかも、その挿絵も多分に想像が加わったものであり、理想化あるいは誇張されたもので、目の前のエオストレとは似て非なるものだ。


「で、エオストレは龍の素材を取り込んで、自らその力を得たいと考えているのね?」

「取り込むのではなくて、取り戻す、と言った方が正確ね。」

「それは、私にとってはどちらでも良いことよ。それよりも、あなたのその我が儘でヒルデガルトを危険な旅に追いやったのね?」

 デルマは、世間知らずで自らの身を守る術さえ覚束ないヒルデガルトを危険な霊峰にまで登るよう駆り立てたエオストレに少し腹を立てていた。


「そ、それは・・・ヒルデガルトは、力を取り戻せず、弱い存在である私を助けてくれると約束してくれたの。私の姉として、名付け親として、私を助けてくれるってね。」

 エオストレはデルマの口撃に少したじろぎながらも反論した。いくら「弱い存在」といっても、明らかにヒルデガルトよりもエオストレの方が物理的な攻撃力はもちろん魔力でも勝っているのは明らかで、エオストレ自身もその自覚はあった。


「デルマ先生、あまりエオストレを責めないでくださいませ。私はエオストレの義姉妹として、自らの意思で彼女のお手伝いをしたいと思っているのです。」ヒルデガルトはやんわりとエオストレを庇う。


「ほら、ヒルダもこう言っているでしょ。デルマも手伝ってくれるのよね?」

「私はあなたを手伝うんじゃなくて、あくまでもヒルダを手伝うの。そこは勘違いしないで。」

 デルマはエオストレと馴れ合う気はなく、なし崩し的にエオストレのペースに乗せられないように釘を刺す。


「ふーん。まあ、良いわ。」デルマの苛立ちを感じとったエオストレはこれ以上険悪な雰囲気にならないよう矛を収めた。


「ところで、エオストレ。あなたはやはり霊峰シュピッツェに登るのが良いと考えておいでなのですか?」話を本題に戻そうとヒルデガルトはエオストレに話しかけた。


「そうね。少し違和感はあるけれど、懐かしい力を感じるわ。」

「懐かしい・・・それは龍の存在でしょうか?」

「純粋なものとは少し違う気がする。波長が合わないというか、雑音というか。波動に乱れを感じるの。」

 エオストレの表情は読めないが、人間であれば眉間に皺を寄せたような顔をしていたかもしれない。


「そうですか。」エオストレの少し不安げな答えにヒルデガルトも答えも少し沈んだ色を帯びる。


「でもね。目当てのものではないかもしれないけれど、大きな力の存在は感じるの。」エオストレがそう言って顔を上げる。

「だから、もし外れでも、ここまで遠出してきた価値はあると思う。」


「力ねえ。それって、街の入口で見た魔物騒ぎの原因じゃないかしら? 伝説の白銀の古龍が暴れて霊峰に巣くっていた魔物が逃げ出してきたのかもよ。」山岳案内の男が「見たことのない魔物に襲われた」と騒いでいたのを思い出しながらデルマが口を挟む。


「そうね。デルマの指摘は良いところを突いているわ。魔物たちの力の均衡が崩れているのかもしれないわね。」デルマの言葉に首肯しながらエオストレはヒルデガルトにちらりと視線を送った。

(この薬師、なかなか知恵が回るわね。ヒルダの世間知らずを治す良い見本になるかもかもしれない。)


「デルマ先生。もし、山に登るのでしたら、山の民に許しをもらわなければならないのではありませんか?」

「そうね。山の民に案内をお願いする必要があるわ。明日の朝、山岳案内の組合に出向きましょう。」


「?」エオストレが不思議そうに首をかしげた。

「霊峰シュピッツェは白銀の古龍のすみかなのに、なぜ人間に許可を貰わないといけないの?」


「そうよ。山の民は遥か昔から白銀のアデルハイトを崇めていて、自分たちだけがその護衛あるいは召し使いとして仕えることを許されたと信じているからね。」

 薬草の買い付けなどで山の民と交流があるデルマがそう解説すると、エオストレは鼻で笑った。

「ふん。要するに古龍が人間の些末な営みなど一顧だにしないのを良いことに、勝手に古龍の使徒と名乗っているだけね。」

 エオストレ自身あるいは前身のアデルハイトが預かり知らないところで己の威を借り、山を独占しようとする山の民に呆れたような声を出した。


「まあ、私たちが聖堂で神を崇め、聖堂を汚す者に腹を立てるのと同じように、山の民は霊峰で古龍を崇め、山を汚す者を排除する。そこに山の恵みの利権も付いてくるといったところでしょうね。」

 冷静にデルマは応えるが、龍の形をしたエオストレが龍を崇める山の民を鼻で笑うのを訝しく感じていた。


「まあ、何にせよ、無駄ないざこざを起こさないためにも、もし、山に登るのであれば明日の朝に山岳案内の組合に出向いて話を聞きましょう。」

デルマはそう締め括ると、ヒルデガルトたちに向かって夕食の話をし始めた。


**********


 翌朝、山岳案内の組合が開く時間にヒルデガルトとデルマは組合に出向いていた。エオストレはまたヒルデガルトの影の中に隠れてしまったようだ。


「ごめんください。山に、シュピッツェに登って氷河を見たいのですが、案内をしてもらえないでしょうか?」デルマは受付らしき所に座っている女性に声を掛けた。


「今日、シュピッツェに登られるんですか?」受付の女性は少し驚いたようだが、すぐに確認のように繰り返した。


(外から来た観光客のようだけど、昨日の魔物騒ぎを聞いていないのかしら?まあ、魔物が出たという確証もないし、観光客がいなくなったら、うちも商売上がったりだから、助かるんだけど。でも、昨日の今日で山に登ってくれる案内人がいるかしら?)

 そんなことを思いながら、受付の女性は山岳案内人の名簿をめくった。


「お客さんはお二人で観光ですか?」

「ええ、こちらには始めて来たんですが、山に登るには案内人が一緒でないといけないと宿の人に言われまして。」

「そうですね。シュピッツェは聖なる山で入山が厳しく規制されていますし、何より真夏でも雪が残っていて、遭難の危険もありますから、案内人をつけていただくことになっています。」

「素人でも万年雪が残っている所まで登れますか?」

「そこは熟練の案内人がお手伝いしますので。真夏でも雪が見られたと皆様にご満足いただいていますよ。」

 そう言いながら、受付の女性はデルマとヒルデガルトの頭から足先まで見ながら、その服装を確認した。


「その服装では山の上では寒さに震えることになりますね。荷物になりますが、厚手の外套が必要です。ご入り用なら一着小銀貨3枚で貸し出していますよ。」

 受付の女性も商売ということで巧みに外套を勧めてくる。


「あちらに貸し出し用の外套を吊るしてますので、大きさなど確認なさってくださいね。では、私は案内人に声を掛けてきますので。」受付の女性はそう言ってたくさんの外套が吊るされた棚を指差してから奥の方に入っていった。


**********


「ヒルダ、今の話を聞いていた? 昨日、ここの案内人が大怪我を負って下山してきたのに、何事も無かったかのように話していたわ。油断は禁物ね。」小さな声でデルマはヒルデガルトに耳打ちした。

「はい、デルマ先生。」ヒルデガルトは小さく返事をすると、切り替えるように外套の棚を指差しながら声を少し大きくした。

「それにしても、山の上は夏でも外套が必要なくらい寒いのですね。お話を伺っていて驚きましたわ。」

「山は高くなれば高くなっただけ気温が下がるから。だからこそ、真夏でも雪が残っているのよ。」

「そうなのですね。王都にいては見られないこと、分からないことがたくさんありますのね。」

 デルマの説明にヒルデガルトは感心して頷いている。

 王国でも北に位置し、標高も高いシュピッツェだからこそ真夏でも雪が見られるのであって、王都に閉じ込められたままであれば、ヒルデガルトが真夏の雪山を見ることは一生無かったかもしれない。


**********


 山岳案内の組合で案内人を雇い、ついでに外套も借りたヒルデガルトとデルマは、麓の街シュネーベルクを後にし、霊峰シュピッツェへと足を踏み出した。


 結局、組合の案内人で二人の山登りの案内を買って出たのは、山の民出身の若い駆け出しの案内人だけだった。

「今回、案内をするニコと言います。案内人としては駆け出しですが、シュピッツェは物心ついたときから庭として遊んできたので安心してついてきてください。」

 そばかすの目立つ、まだ幼さを残した顔をしたニコは指で鼻の下をこすりながら、自己紹介をした。


「私はデルマ、こちらはヒルダ。山登りは素人なので、ゆっくり登ってくださいね。」デルマ自身は霊薬の素材となる薬草を探して各地の山を登った経験があるが、ヒルデガルトは全くの素人なので、ニコにゆっくり登るようお願いする。


「分かりました。できるだけゆっくり登るけど、しんどくなったら言ってください。すぐに休憩を取りますんで。」そう言って、ニコは鼻の下を人差し指で横に当てて、へへっと微笑んだ。


「ヒルダと申します。頑張ってついて参りますので、よろしくお願いいたします。」

 ヒルデガルトがそう言ってにっこりと微笑むと、ニコは少し照れたように任せとけと拳で自分の胸を軽く叩いた。


 霊峰シュピッツェは標高約1,100クラフテル(2千メートル)、王国3番目の高さを誇り、標高800クラフテル(約1,500メートル)付近から万年雪が見られるようになる。

 長年、観光客が登ってきたこともあり、楽に登れるルートが整備されているが、逆に言えばそのルートを外れて登ることを山の民は非常に嫌う。

 特に万年雪が始まる標高800クラフテルよりも上の部分は滑落事故も多く、山の民は部外者がそこを越えて登ることを禁じている。

 山の民に古くから伝わる言い伝えでは、山頂には太古の昔にできた噴火口があり、その奥に白銀の古龍アデルハイトが棲んでいるとされている。ただ、その中を覗き見ることは古龍の怒りに触れる禁忌とされ、山の民は「見るなかれ、語るなかれ」と厳しく戒めている。


 今回、デルマは万年雪が見たいと組合に伝えており、建前としては標高800クラフテル付近まで整備されたルートを登ることになっている。

 本当の目的は白銀の古龍が住まうと言われる山頂の噴火口を目指しているのだが、それを今の段階で明かす必要もないし、ニコには800クラフテル付近で眠ってもらうことになるだろうと、デルマは考えている。


 気がかりなのは、昨日、山岳案内人に大怪我を負わせた「魔物」である。冒険者ギルドは殊更に「赤羆」であると強調していたが、デルマの見立てでは赤羆よりも長い爪と牙を持った魔物であろう。

 山に棲む魔物でそのような爪牙を持つものの心当たりは無いが、この際、「山に棲む」という先入観は取り払った方が良いかもしれない。


「ヒルダ、エオストレ。いつ魔物あるいは魔物のふりをした人間に襲われるかもしれないから気を抜かないでね。」デルマは先頭を歩くニコには聞こえないように小声でヒルデガルトに耳打ちする。エオストレにも呼び掛けたのは、テルミッツの街でヒルデガルトを誘拐しようとする輩が近づいていることをエオストレが警告してくれたように、今回も警告してくれることを期待してのことだ。


 それにしても、とデルマは思う。山に魔物が出たかもしれないというのに、経験の浅いニコを案内人として紹介してきた組合は何を考えているのだろうか。もしかして、よそ者の女二人を生け贄にでも差し出すつもりなのかしら?

 そんな不信感を持ちながら、デルマは前を歩くニコの背中を見つめていた。


**********


 山の中腹辺りになると、高く鬱蒼とした森ではなくなり、木々の背丈も人間の倍程度まで低くなってきた。少し平らになって開けた所まで辿り着くと、山岳案内のニコがそろそろ休憩しましょうと声を掛けてきた。

 ニコに従って、ヒルデガルトとデルマは歩みを止めると、切り株に腰を掛けて背負っていた荷物を下ろした。


「さすがに歩き詰めで少し疲れましたわ。」そう言ってヒルデガルトは自身の背負い鞄の中から水袋と木をくり貫いた器を取り出し、水を注いだ。

 デルマも荷物袋から水袋と木の器を取り出し、器に水を注いだ後、さらに黄色い液体の入った小瓶を取り出し、器に入った水にその液体を5滴ほどたらした。


「デルマ先生が、そのきれいな色の霊薬は何ですの?」

ヒルデガルトが興味深そうに尋ねるとデルマは小瓶を振って見せながら、これは霊薬ではなく、単に栄養素を溶かし込んだ液体だと説明した。


「栄養素、ですか?」

「そう。ご飯を食べると、それが私たちの血となり、肉となるでしょ? それは食べ物に私たちの体に必要な栄養素が含まれているからなの。この液体はその栄養素の一部を抽出して、濃縮した物よ。」

「食べ物はパンやお肉みたいに固体の物が多いように思いますが、そのような液体にできるのですか?」

「固体でも酸で処理して水に溶けるようにしたり、油やお酒で必要な栄養素を抽出するの。食べ物を食べるのに比べると一部分しか摂取できないけど、必要な物を選んで取ることができるのよ。」

「そうなのですね。魔力を籠めた霊薬と違って、錬金術みたいですね。」

「ああ、確かに。錬金術に近いかもしれないわね。ヒルダも試してみる?」

「そのような貴重な物を頂いてもよろしいのでしょうか?」

「王都に帰れば、すぐに作れるから構わないわよ。これからまだ道程は長いし、ヒルダも栄養をつけなさい。」

 そう言うとデルマはヒルデガルトの器にも黄色い液体を5滴たらす。


「さあ、味見してみて。」

 そうデルマに促され、ヒルデガルトは目を瞑って、器の水を半分くらい喉に流し込んだ。


「あら。何だか爽やかな香りがして美味しいですわ。」

「でしょ。これは柑橘類や植物の種から抽出した物で疲労の回復に役立つ栄養素が入っているの。」


 二人がそんな話をしているのをニコが見つめているのに気が付いたデルマは、手招きをした。

「あなたも飲んでみる?」

 その声にニコの顔が明るい笑顔に変わる。

「ありがとうございます!」大きな声で礼を述べながらそそくさと器を差し出すニコ。

「原液はかなり濃いから水で薄めて飲んでね。」そう言いながらデルマはニコが差し出した器に黄色い液体を5滴たらした。


 ニコはその液体を薄めないまま指につけて舐めてみる。

「うげっ!苦くて、酸っぱい!」思い切り顔をしかめたニコが、ぺっぺっと唾を吐いているのを見て、デルマは呆れたように肩をすくめた。

「だから言ったでしょ。薄めないと濃すぎるのよ。」

「ほんとですね。でも、いかにも効きそう。」半分、涙目になりながらニコは器に水を注いで黄色い液体を薄めた。


「あ、うまいな、これ。これならいくらでも飲めそうだ。」

「だめだめ、飲みすぎると逆に体に負担がかかるから。過ぎたるは及ばざるが如しってね。」

 そう言うとデルマは黄色い液体が入った小瓶を荷物袋にしまい込んだ。


「ところでニコさん。昨日、山で魔物騒ぎがあったのは当然知ってるわよね?」デルマは切り株に腰を掛けながら満面の笑みを湛えて山岳案内の少年に質問した。いや、有無を言わせぬデルマの雰囲気からは疑問形をした断定かもしれない。


「あっ、えーっと。」突然の質問にニコは言葉を詰まらせる。

「魔物、魔物・・・」


「昨日の昼下がりに山で大怪我をした山岳案内の男の人が『見たことの無い魔物が出た』と騒いでいたわよね? 組合でも対応に追われたんじゃない?」


「あ、いや、怪我は大したことなくて・・・」完全に惚けきれないところがニコの未熟さだろう。そこにデルマが畳み掛ける。

「そう?大したことがないと言えるくらい回復していて良かったわ。大きく切り裂かれていた背中の傷を治療したのは私だもの。」


「あ、あんたがザックの怪我を治してくれたのか!」躊躇うような素振りだったニコがデルマの言葉に破顔した。

「シュネーベルクにこんな腕の良い医者はいないって、組合のみんなで言っていたんだ。」


「それは良かったわ。でも私は医者ではなくて薬師だけどね。」さりげなく「薬師」を強調するのがデルマらしいと言えばデルマらしい。


「それで、本題に戻るけど、この山には魔物が出るのね。」デルマが真面目な顔で改めて尋ねると、ニコは苦しげに息を吐き出した。

「去年まで山の低い所には一番大きくても赤羆しか出なかったんだ。」そう答えるニコの顔はつらそうだ。

「でも、今年の雪解けから角が生えた大きな蜥蜴の化け物とか首が三つもある大蛇が出るようになって・・・」


「うーん、蜥蜴に大蛇ねぇ。昨日のザックさんだっけ、の傷は蜥蜴や大蛇のものではなさそうだったけど。」ニコの答えにデルマは首を傾げた。


「デルマ先生、もしかして鷲獅子ではありませんか? 昨日、お怪我をされた方の傷は以前に魔術の先生に連れていっていただいた森でお見かけした騎士様の傷によく似ていた気がいたします。その騎士様は鷲獅子に襲われて大怪我をなさっていたのです。」おそるおそるといった風情でヒルデガルトが口を挟んだ。


「鷲獅子・・・確かに鷲獅子の前足の爪であればあれくらい深い傷を与えられそうね。ニコさん、ザックさんは魔物について何か言ってませんでした?」

「鷲獅子って、どんな化け物なんだい?ザックは見たこともない魔物と言っていたけど・・・そう言えば空を飛ぶって言ってた!」

「そう。ならヒルダが言うとおり鷲獅子の可能性もあるわね。ああ、こんなことなら昨日、きっちり裏を取っておくんだった。厄介ごとに巻き込まれたくないからって、治療だけしてあの場を離れるんじゃなかったわ。」ぶつくさ言いながら、デルマは考えを巡らせた。


「それにしても、角蜥蜴や三つ首大蛇に鷲獅子。シュピッツェがこんなに危ない場所になってるなんて、想像もしなかったわ。」デルマは、ヒルデガルト、正確にはヒルデガルトから伸びる影に視線を落としながら、愚痴のように呟いた。

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