11月28日

「別に病んでるわけじゃない。ただ、ときどき、ものすごく寂しくなるんだよね。そういうのってわかる?」

「わかると思う」

「でも彼氏がほしいわけでもない。いろいろめんどくさいし、まあ、そもそもできないし」

「なるほど」

「だから、この前友達とも話してたんだけど、都合のいい男の子がほしいだけかも」

「そうなんだ」

「結局ね」

 エアコンが効いた車内にはオルタナティブ・ロックが流れていた。彼女の選曲だった。

「こういうのを聴きながら運転していると、ちょっと変な気分というか、危ない気分になって、いい感じなんだよね」

「そうなんだ」

「ならない?」

「聴きながら運転したことないからわからないなあ」

「今度してみて、おすすめ」

 その夜、僕は素直に誘いに乗り、お酒を飲みに行くべきだったと思う。そして成り行きというものに身を任せるべきだったと思う。長い人生の中で、何度も思い出しては指でそっとなぞりたくなるような後悔はいくつもあるわけじゃない。

「それじゃあ、今日はありがとう、楽しかったよ」

「こちらこそ、また、元気でね」

「なにそれ、もう会えないみたいじゃん」

「いや、ただの口癖なんだ」

「そう、じゃあ、元気でね」

 それから彼女には会っていない。

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