6月20日
「サピエンス・ブリーダー」
企画当初から黒いうわさが絶えず、人権団体や活動家たちに目をつけられたせいで六度も開発の中断を余儀なくされた。ベータ体験版は公開初日の夜にサーバーがダウン。国際的なホワイトハッカー集団であるアノニマスが攻撃したと正式に発表している。
だがそのようなセンセーショナルな話題もいずれは陳腐化する。気づけばサピエンス・ブリーダーは幾週もアプリストアで一位を独占し、電車で隣の人のスマートフォンを覗けばそれなりの確率でサピエンス・ブリーダーを遊んでいる。今年の紅白歌合戦はサピエンス・ブリーダーとコラボした特設企画があるとかないとか。
そのサピエンス・ブリーダーのゲーム内容はいたって月並み。なめこ栽培キットとまりも育成ゲームとポケットモンスターを、それぞれの対象を人間に置き換えてから、足し合わせて三で割ったものといったところか。サピエンスを発見し、捕獲し、育成し、競技する。コレクションとして楽しむこともできれば、最強のサピエンスを目指すこともできる。おもしろいゲームであることは、その桁違いのダウンロード数と売り上げが保証している。
「なあ、こんなことが先進国でやられてるって信じられるか?」
「おいおい、お前はいつまで新人の気分なんだよ。やってるもんはやってるさ」
「これをか? ほら、まただよ。こいつ、俊敏性と持久性の評価がBとCだからって処分されるらしいよ。BとCって、俺だってそれくらいあるか自信ないし」
「いいからつべこべ言わずにボタンを押せ。納期に遅れたら連帯責任だぞ」
「はいはい。まったく、人権とはよくできた言葉だよ」
「まじめな話、やつらはこんなことを知るよしもないさ。ただのゲームだと思ってるんだ」
「でもさ、それならゲームのままでいいだろ。なにもわざわざ」
「お前ほんと頭が悪いな、知能Eか? こっちが本題で、ゲームなんてただのまやかしさ」
「じゃあ逆になんでゲームなんか作るんだ?」
「ほら見てみろよ。脳にチップを埋め込まれたみたいに人権とかなんとかほざいていたやつらが、嬉々としてこのゲームをやってるんだぜ? この状況がすべてを物語ってるんじゃないのか? ああ、しかし知能Eくんよ、君にはわかりっこないか」
「いやわかったよ、悪かったって。頼むから俺は処分しないでくれよな」
「やれやれ。冗談を言う暇があったらさっさとはたらけ。昨日のパッチノートのせいで、今日はとことん処分することになるぞ」
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