第36話群体VS軍隊

「おい! お前、マリーナのセルゲイだな! 」


 藪螽蟖はエルフにそう聞く。


「そうだよ…だから何だよ?」


 エルフは傲慢な態度でそう返答する。 このエルフの名前はセルゲイ・シコルスキーと言い、 聖騎士クルセイダーの一人である。


「部下と一緒に帰れ! じゃないと部下を喰い殺すぞ! 」


 藪螽蟖はセルゲイの部下にキリギリスが徐々に群がり始めた。 そのキリギリスの特徴はリオック並みの大きさで咬合力は60kgである。 そのうえ、 牙の鋭さは剃刀並みである。


「断る! 」


 セルゲイがそう叫ぶと、 キリギリスはセルゲイの部下を食い荒らし始めた。 最悪な事に部下は、 頭部以外は鎧を着ているため、 口の中から入り内側から食すものが多く、 兵士たちは悶えながら帰らぬ人となる。 兵士を食べていたキリギリスたちは散り散りになり、 ススキ畑の中に身を隠す。


「おい! お前、 仲間を見捨てるとかクズだな! 」


 藪螽蟖は鞘付きの日本刀を手元に転移させ抜刀、 セルゲイを斜めに切り裂く。 しかし、セルゲイはファスナーを開ける様に骨肉を動かし藪螽斯の斬撃をいなす。


「へっ! 驚いただろう!」


 セルゲイはファスナーを閉める様に骨肉を動かし、 素早くつなぎ直す。次の瞬間、 セルゲイはショートソードを抜刀、 藪螽蟖の左手首を斬り落とす。


(再生しない! )


 何かを察したのか藪螽斯は上腕を斬り落とし、 セルゲイから距離を取る。


「驚いただろ…お前らに有効な金属、 戒めの鎖を使った武器だからな! 」


 セルゲイは鬼の首を取ったように調子に乗る。


「戒めの鎖ってマリーナでしか取れないアレ?」


 藪螽斯は首を傾げる。 その時、 切り落とした腕が


「お前に教える義理は無い! 」


 セルゲイは藪螽斯に襲い掛かる。 しかし、 セルゲイの左腕にキリギリスが纏わりつき、 左腕の食い荒らし骨と化す。 それと同時に藪螽斯はグチュグチュと音を立てながら腕を再生させ、 攻撃をいなす。 再生と同時にキリギリスは灰の様な物と化す。


(腕が! )


 セルゲイが藪螽斯から目を逸らした瞬間、 藪螽斯が得物でセルゲイの腹を切り裂き、 内臓を露出させる。


「一か八かだ! 」


 藪螽斯はバックステップで距離を取る。


『神無月』


 その刹那、 藪螽斯は黄緑色の斬撃波を飛ばしセルゲイに命中。 しかし、 セルゲイは絶命しなかった。


「残念だったな…《シャローム》!」


 セルゲイがそう叫ぶ。 するとセルゲイの傷口が塞がり、 全身白いカビの様な物に覆われた。


「嫌な予感がする…」


 藪螽斯は小声でそう言うと、 セルゲイを斜めに切り裂く。 しかし、 セルゲイは余裕な表情で攻撃をいなす。 次の刹那、 セルゲイが藪螽斯の腹を蹴り、 遠くへ飛ばす。


「マジか…」


 藪螽蟖は吐血する。


「お前の負けだ! 潔く死ね! 」


 セルゲイは高笑いに笑い、 勝利宣言をする。 しかし、 藪螽斯が自身の左腕をキリギリスの群れへと変え、 セルゲイの左腕に纏わりつき、 腕を落とす。


「それがどうした? 」


 セルゲイは腕を拾いくっつけようとする。 しかし、腕はくっつかない。


「どういうことだ…」


 セルゲイは焦って何度も何度も腕をくっつけようとする。 しかし、 腕はくっつかない。


「『神無月』! 」


 藪螽斯は左腕を再生させ、 セルゲイに『神無月』を放つ。 しかし、 セルゲイは高く跳びあがり回避する。


「よし、 今だ! 」


蝗害サウンズ オ之舞ヴ インセクツ


 その場に居るキリギリスがセルゲイの周りを囲む様に飛んでいる。 それと同時に藪螽蟖の足がジャイアントテキサスキリギリスの足となり、 高く跳ぶ。


「おい嘘だろ…」


 セルゲイは絶句する。 なぜなら、 周りを飛ぶキリギリスが細胞分裂するかの如く徐々に増えているからだ。 その直後、 ススキ畑から大量のキリギリスが跳びかかり、 セルゲイに纏わりつく。


「安らかに眠れ」


 藪螽蟖の刀が変形する。 変形した姿は、 切っ先はそのままだが、 物打から刃先まで鋸の様にギザギザとなっており。 そのうえ、 刀身は黄緑色となっている。 柄の方は黒色で護拳と呼ばれる半円状の鍔がついている。


「クソっ…」


 セルゲイは逃げようと剣を振ろうとした。 その刹那、 藪螽蟖が『神無月』をセルゲイ目掛けて飛ばす。 それと同時に藪螽斯の別の技が発動する。


『懺悔滅罪』


 なんと飛んでいるキリギリスが『神無月』へと変わり、 セルゲイに襲い掛かる。


「クソがああああ!!! だが、 これで終わると思うなよ! 青柳… 藪螽蟖ィィィィ !!! 」


 セルゲイは断末魔の叫びをあげながら肉片と化した。 藪螽斯は豪快に地面に着地すると足と刀を元に戻した。


「流石にもう復活できないだろう…」


 藪螽斯はその場に跪く。 


「おい、藪螽斯 大丈夫か?」


 いかにも幕末の武士の様な格好をした男が藪螽斯に近づく。


「円四郎のおっさん…やりすぎた…」


 藪螽斯は疲れた様にそう言うと、 男は藪螽斯を担いで安全な場所に運ぶ。 この男は平岡円四郎といい、 転生前に慶喜に仕えた男だ。


「俺はいつ殿に会えるんだか」


「近いうちに会えるんじゃないかな…」


「たどいい けどな…」


 その後、 円四郎は藪螽斯をかなり先の茶屋で休ませた。

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