第9話アロサウルス

  「お兄ちゃん後ろ!」


 エメラルドがそう言うと、 青龍は後ろを振り向いた。 すると、 あの狼が追いかけて来ていた。青龍は狼に中指を立てる。


「どうするの? お兄ちゃん!」


 ルキナは青龍にそう聞いた。


「ルキナはこのまま走り続けろ! 」


 ルキナにそう命令する青龍。


「わかった! 」


 ルキナはさっきよりも速く走る。


「お兄ちゃん、 私はどうすれば……」


 エメラルドは青龍を見つめる。


「ルキナと一緒に村に戻れ」


「もう仕方ないな~」


 エメラルドは頬を膨らませ睨みつける。


「また後でな……」


 青龍は頭を撫でる。 エメラルドは、 頬を赤くし急に後ろを振り向いた。


「行ってらっしゃい!」


 エメラルドは青龍を抱きしめキスをした。


「行ってきます」


 青龍はそう言うと小声で「フェーズワン」と呟く。 すると、 青龍の足元に緑色で巨大な時計の様な魔法陣が出現する。 青龍はその場から跳び降り着地した。 追いかけてきた狼もその場に立ち止まる。


(このガキ……ただもんじゃないな……)


 狼は青龍を警戒する。 青龍が狼を睨んだ瞬間、 青龍の足元の魔法陣から大量の赤い液体が噴出、 液体を浴びて変身する。


 狼は青龍から少し離れる。 狼が離れた瞬間、 空が赤くなり、 パソコンのメッセージボードのような物が空から出現した。 その出現したメッセージボードの様な物にはこう書かれていた「かつてジュラ紀を支配した死に神がいた」と。


 そのメッセージボードが出てきた後、 空は元の色に戻った。 青龍は肉食恐竜のアロサウルス・フラギリスに変身していた。 特徴は、 体色は青色、 爪は濃い黒色、 歯は白色、 口の中は薄いピンク色、 肌は羽毛では無く、 鱗で覆われていた。 全長約20m


 少し時間が経つとは戦闘態勢に入り、 雄叫びを上げた。


(クックク…まさか本当に実在するとはな……捕食種最強と謳われたあのデータファイルが……)


 狼はニヤける。


「初めまして私はフェンリル……」


 青龍達を追いかけていたのはフェンリルと言う狼だった。 フェンリルも口を使わずテレパシーで会話する。 狼のテレパシーにもエコーがかかっていた。


「どうも……」


 青龍も口を使わずテレパシーで相手に伝える。青龍のテレパシーにもエコーがかかっていた。


「すまないが私はお前と戦いたい」


「なんでだよ?」


「私は闘う事が趣味なんでね……」


 フェンリルは不敵な笑みを浮かべた。


(シランガナ! 他所でやってくれ!)


 青龍は口を開けながらそう思った。


「せめて人の話を……」


 青龍はしょぼんとした顔を浮かべる


「もういい行くぞ!」


 フェンリルは笑いながらそう言うと、 青龍に噛み付こうとした。 しかし、 青龍は軽々と避けた。 青龍が避けたとき滅紫色めっしいろの残像が生じていた。


「意外と遅いな!」


「そうか……ではこれはどうだ?」


氷尾刀ひょうびとう


 狼の尻尾が一瞬で氷を纏い刀と化す。


(氷? あの爆発はいったい……)


 青龍は違和感を覚えた。


「俺のメインスキルは変幻自在、 1日1回自分の属性が変えれる」


 フェンリルは調子に乗っている。


「あっ! だからか! ってそれ言っちゃダメだろ! と言うかよくわからん事言うな! 」


「なぬ!? お前まさか……異世界から来たのか!」


「はいそうですけど」


「そうか……そうか……」


 フェンリルは微笑みをこぼす。


「……何かいいことあったの?」


 青龍は、嫌そうな顔をした。 次の刹那、 フェンリルは高く飛び氷を纏った尻尾で薙ぎ払うように攻撃した。 だが、 青龍は頭を少し下げて回避した、 フェンリルはまた高く飛び上がり、 尻尾で突き刺すも、 またしても避けられてしまい、 今度は尻尾で足の方を薙ぎ払う様に攻撃したが飛び跳ねて回避する。


(クソっ……何故当たらない……)


 フェンリルは疲れてきた。


「何でお前、 口とか使わないんだよ。 馬鹿!」


 青龍は尻尾で薙ぎ払う様に攻撃したが、 かわされてしまった。


「遅い!」


 フェンリルは青龍の左腕を噛み千切った。 しかし、青龍に首を嚙まれ投げ飛ばされた。 その後、 青龍の腕はグチュグチュと音を立てながら再生した。


(ヤバいなこれ……)


 フェンリルはその場を去ろうとしたが、


「なんだこれは……」


 フェンリルの目には多くのアロサウルスが映っていた。 そのアロサウルスがフェンリルに襲い掛かる。 しかし、 これら全てフェンリルの幻覚であり、 フェンリルにはダメージが無い。


「これら全て幻覚……だが油断はできない……」


 フェンリルは青龍から逃げた。 逃げた先には村があった。


「そっちはまずいな……逃がすか!」


 何かを察したのか青龍は全力疾走で走りフェンリルを殺す事を決意する。


 幻覚の中逃げ切るフェンリル。 しかし、 青龍はすぐそこまで迫ってきていたのだ。 青龍はフェンリルに追いつくと頭で押しのけるように攻撃しフェンリルの体勢を一時的に崩す。 再度走り出すフェンリル。 だが、 青龍との距離がかなり縮まってしまった。


(今ならいける気がする!)


 青龍は口を大きく開き、 上顎を手斧のように振り下ろし、 フェンリルの背中を何度も切り裂いた。 すると、 フェンリルの背中は血だらけになり、 白い毛も徐々に赤く染まっていった。


(まずい……めまいが……)


 その場に倒れるフェンリル。 それを見た青龍は浮かれてしまった。


「アッやべ!」


 青龍は足を滑らせその場で転倒、 再び立ち上がり。倒れたフェンリルの所まで戻った。


(それに再生も出来ん……なぜだ……)


 すぐさま異変に気づくフェンリル。


「一体何が……」


 青龍がそう呟くと、 フェンリルは口から泡を吹いていた。


「私の負けだ……青龍、 私を殺せ……」


 フェンリルは微かな声でそう言った。


「どうして俺の名前を?」


 青龍はフェンリルにそう聞いた。


「いずれわかるだろう……」


 フェンリルは死にそうだった。


「どういう事だ?」


 青龍はフェンリルに詳しく聞こうとしたが、 そこまで話せそうになかった。


「私は生物型核兵器データファイルフェンリル……」


 フェンリルは血を吐いた。


「もういい喋るな」


 青龍はそう言うと泣きながらフェンリルの首を噛み砕く。


「さらばだ……」


 フェンリルは、 涙を流しながら徐々に灰となり死んでいった。 その灰の中に狼が描かれたガイドストーンが入っていた。


「何だったんだあいつ?」


 青龍は自分の姿を一瞬で元に戻した。 戻る際、 青龍の身体からかなりの量の灰が出てきた。


「疲れたな……」


 青龍はその場に倒れ込んだ。 それを遠くで見ていたエリスはすぐさま青龍を助けに行った。


「龍さんしっかりしてください! 」


 エリスは青龍を担いだまま村に戻った。


「エリス……2人は戻ったか? 」


 青龍は微かな声でそう言った。


「2人って? もしかしてあの少女たちですか? 」


 エリスは青龍にそう聞いた。 すると、 青龍は頷いた。


「雀さんが何とかしてくれています……」


 エリスがそう言うと青龍は「そうか」と呟き安心した顔を浮かべ静かに目を瞑った。


「寝るな!」


 エリスはそう言った後、 ため息をつき病院まで運んだ。

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