3-1 別離

 その後のことは、最初に言った通りだ。

 ツバサのお父さんお母さんは、めちゃくちゃびっくりして、ツバサを叱りつけた。


「ユイちゃん、女の子なのに、顔を傷物にしちゃって。ツバサ、あなたが頑張らなければいけなかったのよ」


 ツバサのお母さんの言い分は、理不尽だった。でも、お母さんがボクを心配してそう言ってくれていることがわかったので、それほど腹は立たなかった。それでもやはり、いちばん怖い目に遭ったツバサが怒られるのは、理不尽だと思った。


 結局、ボクは、ほっぺたを三針縫うことになって、傷跡が少し残った。

 警備会社の人に連れていかれたおじさんは、産業スパイというものだったらしい。メガネ型のカメラで盗撮したツバサの顔を使って警備カメラを誤魔化して、ツバサの家に忍び込もうとしたのだそうだ。


 パパとママは、もの凄く心配してボクを質問攻めにした。事情を知り、ほっぺたの傷が大したことないとわかった後で、二人は、勇気を出して悪い人を追い払い、ツバサを守ったボクを褒めてくれた。でも、ボクは、自分の力ではなかったから、納得できなかった。

 だから、ボクは、ツバサを自分一人で守るために、努力することにした。道場に入って合気道を習い、家では、本を読んで新しい技術や外国の言葉を勉強した。くじけそうになったときは、傷跡を触ってまだ足りないことを思い出した。

 ツバサのお話を聞く時間は、すっかり減ってしまった。

 そうしているうちに、ボクの一家は、パパの転勤で別の街に引っ越した。

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