1-2 おじさん
「ぼく、ちょっといいかな?」
満月の日、ボクは、たまたまツバサと一緒でなかった。だから、そのおじさんは、ボクが一人のときに話しかけてきたことになる。
ピシッと着こなしたコートとスーツに似合わない、ツルが太い黒ぶちメガネをかけたおじさんだった。腰を落として静かに歩く人で、そこもなんだか変だった。
「貝沢さんのお家は、どういけばいいかな?」
「カイザワ? ああ、ツバサの家なら、ボクの家の隣だから案内するよ。おじさんは、ツバサのお父さんかお母さんの仕事仲間なの?」
「私は、貝沢部長の仕事のことで来たんだ。案内してくれるかな」
「いいよ」とボクは、おじさんをツバサの家に案内した。
結局、おじさんは、貝沢部長、つまり、ツバサのお母さんに会えなかった。おじさんは、ツバサにお菓子の袋を渡して、貝沢部長によろしくお伝えくださいと言っていた。
おじさんがしゃがんで目線の高さをツバサに合わせているのを見て、子供を見下ろさない礼儀正しい人だと思った。
おじさんは、メガネのツルを何度か触ってから立ち上がり、駅の方に去っていった。
「ツバサ、おじさん、なんの用事だったって?」
「なんか難しくてよくわからなかった。ユイくん、あのおじさん、ちょっと怖いよ」
おじさんは、ツバサを見てニヤリと笑ったらしい。ボクにはわからなかったけど、ツバサは、そう見えたと言って怯えていた。
そういえば、小学校の先生が、女子を集めて、メガネにコートの変質者に気をつけるように言っていた。確かに、おじさんは、メガネで顔を隠していたし、コートも着ていた。
変質者は、大人しくてかわいい子を狙って悪いことをするらしい。ツバサは、男の子だけど、大人しくてかわいいから、変質者に狙われるかもしれなかった。
「大丈夫。ツバサは、ボクが守る」
「ずっと、ボクが守る」
ボクは、ツバサを抱きしめて、そう誓った。
ツバサは、少し安心したみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます