1-1 カメラ

 ツバサは、肌が健康的に焼けてしまっているボクと違って、スポーツやゲームより、本を読んでいるのが好きな大人しい男の子だった。

 ツバサが好きなお話は、みんなが幸せになるお話。これは、ツバサのお父さんお母さんがツバサに与えた本の影響だ。二人は、世の中が暗くなっていくから、人と本は、明るくなければいけないといつも言っていた。

 ツバサにいい本をたくさん買ってあげたお父さんとお母さんは、IT企業で知り合ったエンジニアとチーフエンジニアだった。

 二人は、小さいうちから色々な知識に触れることが大事だと考えている人たちだった。だから、二人は、ツバサに色々な本を与えたし、VRゴーグルやスマートスピーカーのような新しい技術を使った製品もどんどん取り入れた。

 ボクは、そんな新しいものが珍しくてツバサの家に出入りしていたら、いつの間にか、ツバサが話すお話の方が好きになった。それで、夜になっても窓からツバサを訪ねて、新しいお話をツバサにせびるようになった。


 ある日、北の方で大きな災害が起きて政権が変わり、世の中が少し物騒になった。ボクとツバサが住む街は、静かな住宅地だったけれど、そこでも強盗や危ない人の話を聞くようになった。

 それで、ツバサのお父さんとお母さんは、新しい警備システムを入れることにした。

 二人は、新しい技術を使った製品をどんどん取り入れる人たちだったから、まだ市場に出たばかりの顔認識警備カメラというのを、毛嫌いすることなく自宅に取り付けた。

 そのカメラは、登録された家族とそうでない人との顔を見分けて区別する。そして、家族でない人が家に入ろうとすると、カメラは、サイレンをうるさく鳴らして警備会社の人を呼ぶ。


 ボクもツバサも、お互いのことを家族みたいに思っていたから、ボクは、いつも通り二階の窓に向かった。

 そしたら、そのカメラは、二階の窓から入るボクを見とがめて、サイレンを鳴らした。

 カメラが取り付けられた日から、ボクは、ツバサの家族じゃなくなった。

 ツバサのお父さんでもお母さんでもなく、ツバサの一家を守るカメラがボクとツバサとの関係を決めつけた。

 ボクは、それがたまらなく嫌だった。

 だいたい、ただのカメラなんかに、ツバサを守れるわけがなかった。


 だから、ボクは、あの満月の日も、ツバサを守りに窓から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る