第118話 『ネットゲーム93 夜桜忍法帖』その2

 話が飛んだが、『ネットゲーム93 夜桜忍法帖よざくらにんぽうちょう』の話に戻ろう。

 ただし、本作以降のメイルゲームは資料が手元にない作品が多いので、当時の記憶に頼っていることをご了承いただきたい。


 本作の舞台は8つの忍軍が陰で覇権を争っている現代日本。プレイヤーはある夜流れた赤い流星を見て忍者に覚醒した人間という設定だ。

 私のキャラクター『真喜志まきし 珊珠さんじゅ』はオーソドックスな忍軍『枯葉忍軍かれはにんぐん』の所属だったが、開始当初はどのストーリーを追うか迷っていた。リアクションシートで、あるプレイヤーキャラクターが「幼稚園を作りたい」とNPCに申請しているのを見た私は、あるアイディアを思いついた。

 次回のアクションで私は「山村留学」の名目で園児を募集するという行動を書いた。当時のニュースで、過疎地の学校に都会からの転校生を受け入れるという「山村留学」の取り組みをしている自治体を紹介していて、記憶に残っていたのだ。このアクションが通り、最初に提案をしたプレイヤーキャラが園長となった幼稚園の物語が新しく始まることになった。


 当時の遊演体ゆうえんたいは各忍軍のメインマスターの下にサブマスターが数人所属し、ストーリーを分担していた。幼稚園の物語はメインマスターではなく、サブマスターが担当することになった。本来であれば一人のマスターが全話担当するのが理想だが、スケジュールの都合だろうか、三人のマスターのリレーで書かれることになった。

 序盤に一回だけ担当したあるマスターは、一読して明らかに高い力量の持ち主であることが分かり、次回が楽しみだったが、プレイヤーが設立した新忍軍の担当になったためその回のみで終わった。マスターはその後、同じ名前で大ヒットラノベの作者となっている。


 幼稚園のリアクションを見たプレイヤーが数人職員として合流し、本格的に物語が始まった。園長のプレイヤーは都内のプライベに出てこられる地域に住んでいたため、アクションの打ち合わせは主にプライベで行われた。私と職員のプレイヤーがもう一人加わり、基本三人で次回の方針を話し合っていた。


 園長が幼稚園という場所を作った基本方針は、戦いの続く『夜桜忍法帖』世界における安らぎの場所というものだったようだが、そんな理想が許される物語世界ではなかった。

 園に転がり込んできた記憶喪失のNPCの正体、山村留学した園児の覚醒、他忍軍からの本部襲撃に巻き込まれる等、様々なイベントを経て、珊珠たちは「安らぎの場所」である幼稚園を守るという戦いを続けるのだった。


 次回は当時のプレイヤー交流の話をしたい。

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