第107話 『ネットゲーム91 那由他の果てに』の話

 私がメイルゲームの元祖である遊演体ゆうえんたいの作品に参加するのは、1991年に始まった『ネットゲーム91 那由他なゆたの果てに』からである。

 本作の舞台は神奈川県にある架空の都市、波津野はつの市。神奈川県は遊演体の所在地でもある。この波津野市に「時空嵐じくうあらし」という脅威が迫っていた。プレイヤーは様々な立場で波津野市に起こる事件、イベントに関わっていくことになる。

 就職して余裕ができたこともあり、私は二人の女性キャラクターで参加した。一人は波津野市の職員として時空嵐を密かに研究するというメインテーマに近い物語、もう一人は女優キャラクターだった。


 『ネットゲーム91 那由他の果てに』は、ホビー・データ社の『クレギオン1』に大きな影響を受け、それ以前のネットゲームとはかなりシステムが変わっていたという。

 多数のマスターがサイドストーリーを受け持つブランチ制に近いストーリー、キャラクターの数値化は本作から導入された。次回の選択肢はリアクションの最後に示されたいくつかのコードから選び、詳しいアクション内容をハガキに書く方法だったと記憶している。


 オフィシャルの情報誌もあったが、本作のプレイヤーには前作の『ネットゲーム90 蓬莱ほうらい学園の冒険!』のプレイヤーが多く、同人誌や交流誌も盛んだった。『クレギオン1』『那由他の果てに』が同時開催されていた時期は、二つのゲーム合同のプライベも開かれていた。


 私のメインキャラクターは、以前触れたプレイヤーキャラで共同体を作るというシステムに加わっていた。とはいえ、縛りは同じ名字にするというだけで、他のリアクションで同じ名字のキャラクターが活躍しているのを見るのは嬉しかった。家族の家長役にあたるプレイヤーは年長者で顔も広く、『那由他の果てに』が終わってもプレイヤーが定期的に家長の住むアパートの部屋でお泊まり会をするという交流が続いていた。このお泊まり会の話は後で詳しくしたい。


 もう一人の女優キャラクターは、波津野市で映画を撮るというプレイヤー主導の企画に乗ったもので、プライベか交流の手紙で企画を知って追加キャラクターを作ったものだ。もちろんリアクションのメインにはならず、主催者のプライベートリアクションで映画活動の裏話を綴っていた。企画に加わったキャラクターには蓬莱学園出身者等、前ゲームとの繋がりがあるキャラクターの二次創作という側面もあったようだが、『蓬莱学園』に参加していなかった私にはよく分からなかった。


 メインキャラクターは最終回まで公務員らしくストーリーの裏方を務め、人知れず波津野市を守る手助けをするという役目を果たした。

 女優キャラクターもリアクションには登場できたもののたいした活躍はできなかった。これはサブストーリーの性質上仕方のないことだった。

 結局、最初の遊演体ネットゲームの印象はあまり乗れなかったというものだった。私がネットゲームの恐ろしさを知るのは次作の『ネットゲーム93 夜桜忍法帖よざくらにんぽうちょう』になる。


参考資料 同人誌『94年版 商業PBM白書』Postal Tale 刊

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