第84話 短大の制服と父方祖父母の葬式の話
私の通った短大には珍しいことに制服があった。黒いツーピースのスーツだ。しかし学校に通うときの服は自由で、着ている生徒はほぼいなかった。私も入学式の時に着ただけで、ふだんは私服通学だった。さすがに現在ではなくなっているようだ。
この制服の出番が在学中にもう一度だけあった。それがこれから語る父方の祖母の葬式である。
明治生まれの父方の祖母だが、晩年は体が弱り、仏間に置かれたベッドに寝たきりだった。介護しやすいように部屋の外の廊下には簡易便座が置かれていた。私は帰省時に顔を見せたりしていたが、一年ほどして亡くなった。
葬式には祖母の子どもや孫たちが集まった。棺に寝かされた祖母の顔は、ビューティーアドバイザーをしていた従姉によって化粧された。後年『おくりびと』で遺体の化粧をしているシーンを見て、この時の死化粧を思い出した。
祖母は、当時としてもかなり珍しくなっていた土葬で埋葬された。葬式は自宅で行われ、僧侶が読経を上げに来た。私は喪服を持っていなかったこともあり、短大の制服を着て参列した。
父を始めとする子どもたちが棺を担いで家を出ると、大回りして道路を進み、自宅近くの一族の墓地へ向かった。後年知ったことだが、祖父母の住んでいた場所には戦国時代に同じ名字の武将が住んでいたという平城があり、墓地へはこの平城の外側を回るように歩いていたようだ。系図等はなく、この武将が私の先祖であるかは分からない。
祖母は土葬されたが、数年後に棺を掘り起こして改葬するのだと聞かされた。
祖父が亡くなったのはその一年後だった。朝の墓参りの帰りに交通事故に遭ったのだ。夏だったので棺に入れるドライアイスの効きを父が気にしていた。金婚式を上げるほど連れ添った祖父母は仲がよかったため、「おばあさんに呼ばれたのではないか」と親戚たちが穏やかに話していたのが記憶に残っている。なお、祖父は普通に火葬された。
祖父の死にまつわる後日譚は「第26話 番外編 顕正会に勧誘された話」をご参照いただきたい。
次回はワープロの資格試験の話をする予定だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます