第78話 短大の授業について

 短大の国文科の授業は、日本の古典や文豪の作品を課題にして読解を進めるものがほとんどだったが、受験科目に英語があったことからも分かるとおり、英語の授業もあった。


 英語の授業でロアルド・ダールの短編『南から来た男』を翻訳して読むという課題があり、私はずるい手だが翻訳された話が収録された文庫本を買ってきた。初めてダールの短編集を読んだのだが、有名な推理トリックの元ネタとおぼしき話など、読み応えがあって楽しめた。


 国文学の授業で、私は初めて太宰治や夏目漱石、芥川龍之介などの作品を系統的に読む込むことになった。当時流行っていたA4サイズの電話帳のような全集がテキストとして指定され、課題ごとに読みながら進めていくが、夏目漱石の『三四郎』などは授業を抜きにしても面白かった。


 国文学の担当教授は昭和の文学者、横光利一よこみつりいちの研究者でもあったので、短大2年の授業では『機械』などの文庫本をテキストにして授業が進められた。ただし教授は「研究者としては日本で五番目くらい」というのが口癖だった。これは教授が優秀な研究者ということではなく、横光利一の研究者自体が少ないという自虐ネタだった。ある時、私の家で取っていた地方紙に横光利一の新資料が発見されたという記事が載っていたので話題にしたところ、情報が入っていなかったということもあった。


 ただし、教授は私が卒論のテーマを『パーマン』にしたいと言った時も反対せず、先輩の卒論でシンガーソングライターの歌詞など、エンタメ作品をテーマにした物があると後押ししてくださった。私が『パーマン』で卒論を書くという夢を叶えられたのは教授のお陰である。


 当時の教授の名前で検索してみると、国文学の担当教授は2011年に亡くなられていたことを知った。横光利一研究者の会をまとめる等、亡くなるまで精力的に研究に携わっていたようだ。ご冥福をお祈りしたい。


 短大の授業で私が気に入っていたのは司書の資格を取るための「図書館学」の授業で、私がこの短大を選んだ理由の一つでもあった。かつて東京の有名な大学に勤務していたという老教授が、図書分類法のテキストを元にのんびりと講義していた。

 私は小学校から図書館を長年利用していたが、分類学を学んだことで図書の配置などを初めて理解することが出来た。茨城県には図書館学専門の大学もあり、私が司書になれるとは思っていなかったが、司書資格の証書をもらえたのは嬉しかった。今でも実家に置いてあるはずである。

 検索では調べきれなかったが、図書館学の老教授もおそらく亡くなられているだろう。時の流れは残酷である。


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