第56話 高校の修学旅行の話

 高校二年の冬に行われた修学旅行は京都や奈良ではなく、三泊四日の九州旅行だった。日取りをずらし数クラスごとに別れての移動スケジュールで、同じクラスだったHちゃんと一緒だったのが心強かった。

 一日目は新幹線で福岡へ向かった。新幹線自体ほとんど乗ったことがなく、京都以西は初体験だった。福岡から確かバスで水前寺公園や熊本城を巡り、熊本のホテルに泊まったと記憶している。山口県の秋吉台にも行ったはずだが、一日目か三日目かはっきり覚えていない。


 この修学旅行前に、私は『パーマン』再放送を見るために『アニメージュ』誌に掲載されている各テレビ局でのアニメ放送リストをチェックしていた。1988年当時、関東地方ではテレビ朝日のバラエティ『パオパオチャンネル』内で藤子アニメの再放送をしており、『パーマン』は火曜日だった。しかし、ネットしていない地方では独自に藤子アニメの再放送が行われていたのだ。

 中学の修学旅行では泊まったホテルで名作と評判だったが未見だった「さようならパー子」を見ることが出来たので、今回もあわよくば未見の回が見られるのではないかと期待していた。


 確か一日目の熊本のホテルで、私は調査通り『パーマン』再放送を見ることが出来た。しかも未見の回「パーマンになったカバオの父ちゃん」である。しかし夕食の集合時間が迫っており、私は皆が夕食に向かった後も粘っていたが、泣く泣く途中で部屋を出た。私が「パーマンになったカバオの父ちゃん」を最後まで見るのは後年、衛星放送で再放送された時まで待つこととなる。

 この日は木曜日で、夕食後は当時人気だった音楽番組『ザ・ベストテン』を皆で見ていた。徳永英明が「風のエオリア」を歌っており、初めて徳永英明を見たHちゃんが「男の人だったんだ」と驚いていたのを記憶している。


 二日目はカーフェリーで長崎県西彼杵郡西彼町(現在の西海市)にあったテーマパーク「長崎オランダ村」に向かった。オランダの町並みが再現された園内を散策し、木靴のキーホルダーなどのお土産を購入した。

 この日の宿は佐賀の唐津ロイヤルホテル(現在のHotel & Resorts SAGA-KARATSU)。客室の窓からは小島の浮かぶ唐津湾や「虹の松原」が見え、夕刻や早朝の景色に映えていた。焼き物好きな父のために唐津焼の湯飲みも買った。唐津市内の観光はなかったので、もう一度このホテルに泊まって唐津観光をしたいと思っているが、未だに機会はない。


 夕食後、20時になったので私は『NEWジャングル』を見たいと言ってテレビを日本テレビ系のチャンネルに回した。同室のクラスメイトたちが「誰が目当てなのか」と聞いてきたので、OPで安原義人が出てきた時に「この人だ」と言ったところ、クラスメイトたちは何故こんなおじさんを推しているのか分からなかったようで、「他の番組が見たい」と言い出した。私はチャンネルを譲り、ホテルの廊下に設置してあるテレビで『NEWジャングル』の続きを見ていた。


 しかし、この1988年3月11日に放送された「ショットガン」の内容は衝撃的なものだった。本編の途中で安原義人演じる「カメさん」こと明石亀雄警部補がショットガンに撃たれ、倒れたのだ。折角リニューアルを乗り切ったのに「カメさん」は殉職してしまうのか。私は廊下のソファに体を沈め、様子を見に来たHちゃんとともに成り行きを見守っていた。

 幸い「カメさん」は病院に運ばれ、無事助かった。その後も『NEWジャングル』最終回まで無事出番を全うし、本編でも主役回が何度かあって楽しませてくれた。


 三日目は長崎観光でグラバー邸などを巡り、お昼は長崎ちゃんぽんを食べ、カステラをお土産に買った。

 その夜はホテルではなく、初めて乗るブルートレインで東京まで帰ることになった。記憶が曖昧だが、小さな駅に止まっている出発前の列車をHちゃんが抜けだし、駅前の本屋で発売されたばかりの『アニメージュ』を購入してきた。私はHちゃんと『アニメージュ』を読みながら動き出したブルートレインに揺られ、眠くなると寝台ベッドに入った。


 こうして高校の修学旅行は終わり、後発組だったSちゃんとは後で感想を語り合った。


 次回は友人への『パーマン』布教話をしたい。

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