第7話 帰省の想い出

 私の父親の実家は茨城県、母親の実家は福島県にある。小学生時代は東京に住んでおり、帰省する時は一晩泊まって帰るのが常だった。夏休みなどは二晩泊まった時もあった。実家にはそれぞれ伯父一家も同居していたが、父方のいとこは高校生、母方のいとこは自分よりも年下だった。

 父親の実家のある場所は「昔殿様のお狩り場だった」と祖母が話していた。近くには一族の墓地があり、帰省すると必ず墓参をしていた。我が家もしばらく前に墓石を建てたので、私もこのままでいけばこの墓に入ることになる。コロナ禍の前に帰省した際、今は誰も入っていない墓の前で記念撮影をしてきた。


 今は引退したようだが、当時祖父母の家は農業をしており、キュウリのビニールハウスが立ち並んでいた。ビニールハウスに入ると青臭くてムッとする空間にたくさんキュウリがなっており、伯父が収穫をしていることもあった。

 夏休みの昼間は宿題を済ませると暇になる。そんな時は留守中のいとこの部屋に行って置いてある文庫本を読んでいた。井上ひさし『ブンとフン』や筒井康隆のSF短編集だ。私が二人の小説を読んだきっかけである。後に結婚した彼女の名前を「○○命」と貼ってあるようなヤンキーっぽい彼の部屋になぜそんな本があったのかは謎だが、筒井康隆の文章には大いに刺激を受けた。

 いとこの姉もいたが本は全くと言っていいほどなく、部屋に唯一あった文庫本が曽野綾子「砂糖菓子が壊れるとき」だった。大人の世界の話は子どもには難しく、読み通したのは中学生になってからだった。


 父方の実家ではお盆には仏間の入口に大きな提灯を2つぶら下げ、仏壇の横にぼんぼりを二灯並べていた。仏間には私の生まれる前に亡くなった親戚の遺影もあり、はばかられる雰囲気があった。仏間の続きの部屋が帰省時には我が家の寝室となっていた。

 お盆や年末年始には父の他のきょうだいも訪れ、いとこたちとも遊ぶ機会があった。特に自分と同い年の女の子がお気に入りだった。小学六年生の時、何がきっかけかは忘れてしまったが、部屋の片隅に積んであった布団の山を無人島に見立てて遭難ごっこをした。その楽しさが忘れられなかった私は翌年もごっこ遊びをしようとしたが、一年の間にいとこはすっかりごっこ遊びへの興味を失っており、私は取り残されたような気分になった。

 祖父母は私が大学生になってから相次いで亡くなった。伯父夫妻も亡くなり、現在はいとこが家を守っている。次に行くのはいつだろうか。


 一方、母親の実家にはおもちゃが色々あったので、いとこたちと「億万長者ゲーム」をしたり、祖父と将棋盤でまわり将棋をして遊んだ。他のいとこからのお下がりらしきおもちゃもあり、ゲッタードラゴンのジャンボマシンダーや、モノクロ版パーマンのリュックサックもあった。カードを通すと単語を喋る英語教材もあり、珍しかった私は再生して遊んでいた。

 覚えていないが、幼児の時に母親が入院した際、私はこの家に数ヶ月預けられた。そのせいか、それとも好きな伯父がいたからか、私は父方よりも母方の実家の方が好きだった。家に入るときの独特な臭いも覚えている。


 時には家の周りに遊びに行くこともあった。近くにある学校の校庭で鉄棒をしたり、用水路でザリガニ釣りをしたり。特にお気に入りだったのは家の側にある神社だった。社殿への階段の途中に赤い橋があり、用水路に繋がる小川が流れている。夏は階段周りの木陰が日よけになり、欄干に腰掛けて川を見ているのは気持ち良かった。


 母方の実家は兼業農家だった。伯父は勤め人だったが祖父は農業をしており、トラクターに乗って家に戻ってくるのが物珍しかった。祖父は小柄で、後で聞いた話では体格不足で兵隊になれなかったのだという。私が小柄なのはこの祖父由来らしい。

 トラクターの車庫は二階建てで、二階は狭いが畳の部屋になっており、まるで隠れ家のようで気に入っていた。他にもお気に入りの場所はあり、当時最先端だった取り外せるリモコンテレビがある祖父母の寝室や、銭湯にあるようなモザイクタイル(ニュー浅間石?)の敷き詰められたトイレ、鏡台に置いてある伯父の「MG5」の臭いが好きだった伯父夫婦の寝室、縁側兼廊下にあったサマーベッド、何より好きだったのは夏になると寝室に貼られる蚊帳だった。縁側兼廊下のサッシからは常磐線の線路が遠くに見え、夜遅くなると夜行列車が北に走っていった。当時「やこうれっしゃ」という絵本が好きだった私は汽笛を聞きながら明かりを見つめ、感傷に浸っていた。

 母方の祖父母も父方とほぼ同時期に亡くなった。伯父夫婦は健在なので長生きしてもらいたい。

 長くなったので旅行の話は次回に回そう。

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