第7話 ロイド・マーロウ医師

 ロイド・マーロウという医師は、背の高い美形の男だ。

 銀髪に翡翠色の目に洒落たスーツを着ている。


 派手な容姿なだけでなく、本人も目立ちたがり屋だ。


 ロイドは俺と同い年で、同じ時期に魔法大学に通っていたことがある。


 巨大な病院の前で、医師のロイドは新聞記者たちに取り囲まれているようだった。

 あと、なぜか若い女性もいる。


 取材されているようで、ロイドは得意満面という顔だった。

 ぺらぺらと何か喋っている。


「ええ、ええ。ジョン王子の手術は無事に終わりましたよ。難易度が高い手術だったか? もちろん、一国の王子の手術ともなれば、責任は重大です。緊張したことはたしかですが、しかし、あの病気の手術では私は権威ですから」


 自信たっぷりに、ロイドは記者の質問に答えていた。

 そして、若い女性たちとの握手ににこやかに応じている。


 ファンみたいなものがいるんだろうか。

 今やロイドは王都きっての名医として知られていた。若くしてこの名門病院・聖ソフィア病院の幹部でもある。


 魔術師としても優秀であり、軍にいたころは何度も勲章をもらっていた。


 それに、あいつは昔から女性にモテた。


 俺はとは大違いだ。


 まあ、ロイドのことは今はどうでもいい。


 俺はクリスと一緒に、ロイドたちの横を通り過ぎようとした。

 ところが、ロイドは「お?」という表示になり、俺を呼び止めた。


「アレクじゃないか! こんなとこに何の用だ?」


 しまった。迂回すればよかった。

 昔の友人だが、俺は今のロイドを苦手としていた。


 俺はしぶしぶロイドに顔を向ける。


「仕事だよ」


 ロイドの巻き添えで、俺は周囲の注目を浴びた。

 あまり注目されるのは好きではないのだけれど……。


 だが、ロイドは朗らかに俺の肩を叩いた。


「こいつは俺の大学時代の友人でしてね。軍隊でも同じ部隊だったんですよ」


「へえ、戦友ってわけですね!」


 ロイドのファンらしき女性の一人がきらきらとした目で言う。

 俺は「まあ、そうですね」と言って、さっさとその場を立ち去ることにした。


 俺の目的は、事故の被害者ジョージ・ブラックのことを調べることなのだから。

 病院のレンガ積みの門をくぐり、ぐんぐんと速歩きで中庭を歩いた。


 けれど、小柄なクリスがついてこれなくなっている事に気づき、慌ててペースを落とす。

 クリスがホッとした様子で、俺に追いついた。


「お師匠様……置いてかないでください」


「ごめんごめん」

 

「さっきの人、有名人じゃないですか。ロイド・マーロウといえば、僕でも名前ぐらいは知っています」


「俺も名前を知っているだけだよ」


「でも、お師匠様とは昔からの友達だって言ってましたよ」


「それは――」


 一応、友人ではあったのだが、軍隊時代のトラブルのせいで、疎遠になっていた。


 軍にいたのは、俺の前世の記憶が戻る前だ。だが、アレクが生まれて以来の記憶や感情も、俺は引き継いでいる。


 ロイドは俺のことを悪く思っていないようだが、アレク、つまり俺には複雑な思いがあった。


 そのとき、後ろから足音がした。

 振り返ると、そこにはロイドがいて、翡翠色の瞳を輝かせていた。


「そのとおり。君はアレクのお弟子さんかな? こんな可愛い女の子を弟子にするとは、アレクが羨ましいな」


「僕は男ですっ!」


 クリスがいつもどおり勘違いされて、抗議する。

 ロイドは「おや」と笑う。


「男の子だとしても羨ましい」


 クリスがぞわっと怯えた表情で、俺の後ろに隠れる。

 俺は肩をすくめた。


「俺の弟子をからかわないでやってくれ」


「悪い悪い」


「取材は終わったのか?」


「切り上げてきた。もともと予定していたわけじゃなく、勝手に記者たちが来ただけだからな。古い友人がわざわざ訪ねに来てくれたんだから、そちらを優先すべきだろう?」


「別に俺はお前を訪ねに来たわけじゃない。用があるのは――」


「死体か? ジョン・ブラックなら、オレの担当だぜ?」


 ロイドはにやりと笑った。


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