ペンライトも、うちわも。

そんなことを考えているとおしゃれなドアの前に着く。

見上げることが出来るほどの大きなドアを開けると、長いテーブルの上に煌びやかなご馳走が置いてある。


風を伝って私の元まで届く香ばしい匂いが、食欲を掻き立てる。


「こんなご馳走、生きてるうちに数えられる程しか食べてないって…」


正直今すぐにでも食らいつきたいが、踏みとどまる。

よく見ると周りには綺麗な人達が沢山いて、流石にマナーを気にせずがっつけるような雰囲気ではない。


大人しく案内された席に座る。

ふと横を見ると綺麗な女性がいる。


桃色の美しい髪をしていて、つい見惚れていると隣の女性がこちらを振り向き微笑む。

女の私でもどきっとするくらい優しい笑顔。

きっと男の人は皆好きになっちゃうな…なんて思っていると後ろから声をかけられる。


「どうかしたの?」


と声をかけてきたのは右横の青年で。

綺麗に輝く金色の髪に海のような澄んだ目の色をした美少年だった。


ただこの人だけは見覚えがある。

主人公のお姫様の兄だ。

あまり黙ったままでいると変に思われてしまうので適当に反応する。


「…お兄様、なんでもないです…わ?」


お姫様の喋り方なんて漫画でしか見た事がないから上手く喋れず言葉に詰まってしまう。


「…?そうかい、それなら良かった。」

とふわっと笑う青年にふと前の世界の推しを思い出す。

この世界は顔面偏差値の高さが生存条件なのだろうか…


とにかく不思議に思われているのは確かなので目の前の美味しそうな食事を食べ始める。


食べながら周りの人を観察していく内に色々わかったことがある。

まず横の桃色の髪色をした美しい女性は私の母親に当たる人…らしい。

名前はファル・シャルロッテ。

ルミアはファル母様…と呼んでいたらしい。


逆横の青年の名はナジュア・シャルロッテ。

この流れ的にお父様も居るのかと思っていたのだが、残念ながら他国へ行っていたようでお父様の事はあまり知れなかった。




食事の時間が終わると強制的に部屋に戻される。

これから他国の王子があの部屋に来るらしい。


あまり国の事については分からないので大人しく籠っておく事にする。

前の世界では学校があった為、ゆっくりする時間がなかったので正直少し嬉しい。

と思っていたのだが、想像していたより暇で暇でしょうがない。


絵本やおもちゃはあるが、小学生が喜びそうな物しかない。当たり前だが私はルミアではないしルミアより何歳も歳上だ。

こんな物でわくわくする歳でもない為、ベッドに横たわる。


リトも買い物に行っているみたいで広い部屋に一人なのが更に辛い。

前の世界では何をしていたか…

広いベッドの上をごろごろしながら考えていると、一つだけ思いつく。


「あ、そうだ。ヲタ活…!!」

完全に忘れていた。

これだけ顔面偏差値の高い人達に囲まれていながらヲタ活もしないなんて勿体無い。


そう考えた私は机から紙やペンを持ってくる。


ペンライトもうちわもないけど、ヲタ活したい…!!

と、そう強く願い、紙に大きくこう書いた。


「「推し量産大作戦!!!!!」」


ネーミングセンスは置いといて、長すぎるので略すことにした。

推し…量産…大作戦…で面倒臭いからR作戦…!!!


鼻歌を歌いながらそんな事を一人で叫ぶ。

ドアの前に潜んだ人物の事なんか気づかないまま。

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推し活がない世界で、全力で推しを応援します。 もか @moca_0202

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