第3話 崩壊

高校生になると、Xはバイトを始めた。以前の父なら、金稼ぎする暇があるなら勉強をしろ、とでも言っていた筈だ。自分で稼いだ金で好きなだけアニメ商品を買えるので、アニメオタク化がさらに進んだ。いつでも二次元の事ばかりを考えており、現実世界の女子には最早興味がなかった。二次元の女子は絶対に浮気をしない。だが現実世界の女子には浮気をする等の「裏の性格」を持つ者もおり、それに恐怖を感じていた。

 成績は堕ちるところまで堕ち、ついにテストの点数は学年最下位となった。大学への進学はもちろん、学校への在籍までも難しくなっていた。いままでXを慕ってくれていた友達が「アニメ馬鹿」と軽蔑するようになった。優しくなった、というより息子を別の生物として扱うようになっていた父はXに対して

「頼むから大学への進学はしてくれ。進学したらお前の好きな様にしていいから」

と言った。Xは耳を疑った。好きな様にしていい?

「じゃあ一人暮らしをしてもいいってこと?」

「ああ。引っ越し代は父さんが出す」

やったぞ。地獄の家庭環境から逃げられる。しかも、父が引っ越し代を出してくれるなんて。実際は、父は「アニメオタク」という生物を家から追い出したかった為、極度の倹約家とは思えぬ事を言い出したのだ。

 Xは勉強に力を入れるようになった。しかし勉強の最大の目的は「一人暮らしをする為」であった。以前の様に知識を深めようという意欲は消えていた。結果、大学進学に必要な成績は残すことができた。 


 大学に進学した。大学近くの安いアパートに引っ越しをした。これで地獄から抜け出せる。いや、実を言うと、ここ二、三年は家でも父は居ないと同然のような存在であった。引っ越したところで、変わったのは通学時間位であった。中学生の頃、Xは大学生になったら恋人とデートをする、という自分の像を描いていた。だが今は、「裏の性格」におびえて女子だけでなく、男子ともまともに関わることができなかった。もちろん大学の外部生と仲良くなれず、どんどん孤立していった。中高の同級生からも見捨てられるようになった。


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