第2話  二次元との出会い

しかし、相変わらず家庭環境は最悪であった。母は結婚して二十年近く経つというのに、未だに自分の夫の事を恐れていた。Xが母と談笑している時に父が帰ってくると、緊張感の嵐が家に吹いた。父との距離を置くため、こういう時にXは自分の部屋に籠り、パソコンでゲームをしたり、大人のビデオを鑑賞したりした。しかし、思春期の少年の気持ちもお構いなしに部屋に侵入するのが父親であった。

「おい、勉強はしているのか?」

と聞き、答える隙も与えないうちにXのパソコンの履歴を漁りだした。

「お前、こんなくだらん事をしている暇があるなら勉強しろ!」

と怒鳴りながら、パソコンにあったゲームのデータ、大人のビデオの視聴履歴などの勉強と関係ないものをすべて消した。Xは言うまでもなく、父を心底嫌っていた。

 

 Xは何か物足りなさを感じていた。女子だ。男子校に在籍している以上、女子との出会いは少ない。小学生時代、何気なく女子と話す事が出来たのは幸せな事であったと気付いた。

 しかし、女子との出会いの場所はすんなりと見つけることができた。二次元だ。Xはとある場所に掲示されていたポスターに描かれていた二次元の女子に一目ぼれした。これがXの初恋であった。

 それからXは親の目を盗んで深夜に放送されるアニメを見るようになり、次第に二次元の女子への恋心は強くなっていった。毎月貰う雀の涙程の小遣いを叩いて、アニメ関連の商品を買うようになった。別にアニメ好きを隠すつもりはなく、周りからは「X=アニメオタク」という方程式が出来上がっていた。

 勉強がおろそかになったのはこの頃であった。三度の飯よりアニメ好きであったので、休みの日は自分の部屋に籠り、アニメを鑑賞し、アニメ関連のゲームをして一日を過ごした。流石に父は爆発する・・・と思われたが、実際はしなかった。この時ばかりは父はXのことを本気で心配した。

「なあ、アイツの気は確かなのか?」

「あの子は本気で恋心を抱いているみたいなのよ・・・」

父は「アニメオタク」という生物の存在を信じられぬ様子であり、息子の気が狂ったのだと思った。母は息子がアニメオタクになった事を受け入れているものの、取り扱いの難しい人間という認識は持っていた。

 中学一年生の時、学年五位であったXのテストの成績は、三年生になると下から五位にまで転落していた。小学生の頃、Xがテストで六十点台を取るとビンタしていた父が、成績に関して何にも言わなくなった。「アニメオタク」に化けた息子に近づく事に恐怖を覚えたからであった。

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