消えた足跡
@Nagaura
第1話 地獄の家庭環境
Xの家庭環境は居心地の悪いものであった。父は亭主関白で、Xに構わず暴力を振るうような人であった。テレビを観ている時以外、笑顔を見せることはほとんどなかった。Xは一度、父のお気に入りのワイングラスを割ってしまった事があった。潔く謝ったものの、父は
「二度ととぼけた事をするな!この大馬鹿者!」
と怒鳴り、Xにビンタした。その時、Xの口からは血がでた。その上、非常に倹約家であり、衣服は穴が開いていても
「まだ着れるだろ」
と言い、買ってくれなかった。Xは「人間としての最低限度の生活」を送っていた。一方母は、暴走する夫の機嫌を伺いながら行動している存在であった。Xに対しては優しいが、叱る時は叱る、ごく普通の母親であった。
小学四年生になると、勉学に勤しむようになった。節約を限りなくする家庭で生まれ育ったXにとって、勉強はお金をかけずに楽しめる娯楽のようなものであった。進学塾に通うようになり、学力はメキメキ伸びた。また、彼にとって塾は、父のせいで地獄で漂っているような空気が流れている家庭から逃れることができる避難所であった。生徒とは仲良くなれたし、先生には沢山質問をした。先生との関係も良好であった。いくら倹約家の父も、自分の息子の学力向上の為ならば高い授業料を払う事を厭わなかった。やがて模試で成績上位に入るよう学力が身につき、模試で全国八位になった時は、「あの」父が満面の笑みでXを褒めちぎった。
そしてXは有名私立大学附属の、中高一貫校に合格し、入学した。その学校は男子校であった。小学校時代とは違って、女子と触れ合えなくなるのは残念であったが、男子だけの空間というのも面白かった。私立学校ということもあり、良い意味で個性的な授業が展開されて、Xの学習意欲をくすぐった。成績も好調で、多くの生徒から慕われた。学校生活はこの上ないくらいに楽しかった。
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