二人の世界
あの日を境に、二人で密かに暮らすように海の見える小さな家へ引っ越した。
動くことのできないウミは窓から宝石のように反射する光を見ながら日々を過ごしていた。
ハルはウミのそばにいるため自宅で仕事ができる職へと変わった。
生活にも落ち着いて季節が春から夏へ変わろうとしていた。
ある日、ハルがスコッチを買って帰ってきた。
「ウミ、君の好きなお酒買ってきたよ。明日はお休みだから一緒に飲もう。」
ウミは目を輝かせて頷いた。
「ハル君、ありがとう。飲み過ぎないようにしないとね。」
ハルは意気揚々とグラスを準備し、二人で乾杯をして飲み始めた。
「ハル、ずっと一緒にいようね。」
「そうね。」
酔ってきたハルは未来の話を繰り出すが、ウミは雲をつかむような返事しかできなかった。
外に出ることなく、二人で過ごす時間は永遠のように長く、そして退屈さえ感じるほど過ぎていった。
今日もウミは窓の外を眺めては反射する光に目に入れていた。
「散歩しに行かない?」
仕事中のハルから急に声をかけられウミは少し驚いた。
「ううん。大丈夫よ。ここから見るだけでも充分よ。」
「そう。外に出たくなったら言って。」
「私、出られないから。」
少し悲しげな表情でハルは仕事に戻った。
ウミは窓へと視線を戻しキーボードの心地いい音に耳を傾けていた。
ある夜、ハルの携帯に電話が入っていた。
ハルの友人、セツからのものだった。
「セツ君から電話来てるよ。」
「ああ、大丈夫。」
面倒くさそうに確認をして電源を切った。
「大丈夫なの?急用とかじゃないの?」
心配するウミを余所にハルは黙ったまま隣に座ってくる。
ウミは窓の外の海はいつもより波が高く、色が濃いように感じた。
「もう寝る時間だよ。寝よう。ウミ。」
そう言うと布団に入ってきて力いっぱい抱きしめて来た。
「ちょっとハル君、苦しい。」
ハルは笑いながらもっと力を込めてきた。
ウミも負けじと冷えた足をハルにくっつけた。
「冷たいっ!」
「私、冷え性なの。」
「夏なのになんで冷たいの。」
ハルは逃げるようにウミに背を向けたが仕返しと言わんばかりにウミは冷え切った手で首を触る。
「まじやめて。」
ハルは笑いながらウミに向き合った。
透き通った瞳は揺れていた。
「大丈夫。いなくならないよ。」
ウミが言うとハルの目から静かに溢れた。
「大丈夫。大丈夫。」
ウミはハルが落ち着くまでずっと和めた。
朝、ウミはいつもと違う色の景色を見ていた。
いつもより色が白く、時化ており飲み込まれる気がした。
「ハル君、波が高いよ。」
「そうかな。いつもと変わらないけど。風が強いんじゃないの。」
「そうかな。」
ウミは不思議に思いながら窓辺に座り遠くの光を探していた。
「ウミ、今夜飲もうか。」
優しい声がする。
「おつまみ買って、居酒屋みたいにしよう。仕事終わったら買ってくる。」
「ハル君買い過ぎないでね。」
「わかってるよ。」
何か企んでそうな笑顔でウミと一緒に買ったTシャツを着て去って行った。
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