ハルに見た夢の浮橋

五十嵐 響

散る桜

あの日、私は動けなくなった。



新しい季節になり、風は暖かく桃色で優しい景色に変わっていた。

ウミは同棲2年目になるハルに起こされ仕事へ向かう準備をしながら朝のテレビをコーヒー片手に余裕そうに眺めていた。

「今日俺も同じくらいの電車に乗るから一緒に駅まで行こう。」

ハルにそう声をかけられ朝からウミはいつも以上に胸をときめかせていた。

駅までは長い桜並木がある。

風が吹くたび青々とした空に舞う花びらはまるで雪のようだった。

「ハル君、今夜何時に仕事終わるの?」

「いつも通りだよ。どうした?」

「今日夜桜見に行かない?」

期待の眼差しでハルにたずねる。

ハルが微笑むとウミはガッツポーズをした。

「駅で待ち合わせね。私ちゃんとお酒買っとくからね。」

「はいはい」

軽く返事をした。

ハルの返事に対してウミがすねている姿を見て、夜のデートが楽しみでしかたがなかった。

たわいもない話をしながら駅まであと少しというところで交差点にさしかかった。

凄まじい衝撃音が鳴り響いた。

ふと隣をみると隣を歩いていたウミがいない、ハルは慌てて周りを探した。

しばらくするとハルの耳に悲鳴が聞こえてきた。

一瞬のことでハルは理解が追いつかなかった。

急いでウミを探すと遠くの方でぐったりとしているウミを見つけた。

急いで病院へ搬送された。

病院でのウミはすごく静かだった。

いつもにぎやかなウミだったため余計に事故の衝撃がハルを襲った。

廊下で打ち拉がれるハルに声をかける女性がいた。

「ハル君かな。ウミの母です。」

今にも消えそうな細い声だった。

ハルは慌てて会釈をした。

「ウミがこうなってしまったのは、ハル君のせいではないからどうか自分を責めないで下さい。それとウミを連れて帰ろうと思うんだけど良いかな。」

優しい言葉にハルは涙を流した。

「まだ一緒にいさせてもらえますか。どんな形でも、ちゃんと尽くします。」

「けど、あの子はもう…」

言葉を遮るようにハルは続けた。

「お願いします。」

何度も深く頭を下げ続けた。

ハルの態度に根負けし、ウミの母親はうなづいた。

ウミはすぐに病院を出ることができた。

ウミの母親の手を借りながら一緒に2人が住んでいる家にウミを連れて帰った。

最後までウミの母親は心配そうにしていたがハルは気丈に振る舞った。


「今までとは違うけどまた2人で暮らせるね。」

ハルがウミに話しかけるとウミはとても申し訳なさそうにしていた。

「私もう動けないからハル君に迷惑かけてしまう。」

「俺はウミと一緒にいれるだけで幸せだから気にしないで。だからいつもみたいに元気に楽しくお話ししよう。」

ハルとウミは抱き合いながら涙を流した。

もう戻ることのできない時を思いながら泣き続けた。




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