第2話 少年と少女(と仔犬)
公園のベンチに座り何かを読みふける少年─レオン─は、立体表示式ニュースペーパー端末のページを上下にずらしていく。
読み終わるとニュースペーパー端末の電源を切り、持ってきていた紙の本を開く。少しでも一般人らしく振る舞い不自然な態度を取らないように、と訓練してきた結果だが、人気が全く無い公園では少し浮いた印象を感じる。
ワンワンッ!
向こうから仔犬が走ってきた。どうやら散歩中で飼い主がリードから手を離してしまったらしい。
人懐っこそうな仔犬は、警戒することもなく尻尾を振りながらレオンにすり寄ってきた。レオンが仔犬を抱えると、
「こらー、マルクス離れちゃダメでしょー!」
仔犬が来た方向から一人の少女が息を切らして駆けてきた。
「あっ、うちの犬を捕まえてくれてありがとうございます」
少女がレオンにお礼を述べる。
「この子、マルクスって名前なんだけど、公園に来るとはしゃいじゃって、すぐ走り出すの」
そう言いながら走って疲れたのか、ベンチに座る少女。
「公園で走り出すのか、散歩コースを替えたらいいんじゃないのか?」
つい思ったことを口に出すレオン。
「そっか! ありがとう!」
笑顔でお礼を述べる少女。
「あっ! 私の名前言ってなかったわね。私、ミレアって言うの! お兄さんは?」
「…レオンだ。見たところ同い年の様だから呼び捨てでいい」
「レオンね! 私もミレアでいいわよ」
屈託のない笑顔をレオンに向ける少女─ミレア─今時珍しく犬を飼っている所といい、苦労知らずという印象を受ける。
「ね、紙の本なんて珍しいね。何の本読んでいるの?」
「…哲学、だな」
一般人らしく振る舞うために整備士から適当に借りてきたので表紙と内容までは気が付かなかった。
「難しそうな本読んでるんだね。そういえばレオンは家が近いの?」
結構矢継ぎ早に質問される。レオンは「あっち」と、アジトとは反対方向の住宅街に指を指した。
「へー。あっ、もう帰らなきゃ。じゃあ、またね!」
元気よく手を振りながら仔犬と共に走っていくミレア。
姿が見えなくなった頃、レオンの耳に着けているイヤーカフ型通信機へアジトから連絡が来た。
『おーい、明後日まで待機しててくれって、通信が来たぞ。追って次の現場を知らせるってさ』
「…分かった」
そう伝えると、ミレアが去った方向を一旦見て、踵を返してアジトへ帰っていった。
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