第12話 不測の事態、その正体



 が、目も合わせず、誰一人として答えようともしてこない。

 となれば、俺が口にするしかない。

 

「もしお前らが互いに協力してたら、これだけ被害が出る前にどうにか出来ていた筈だ」


 片腕を腰に当ててそう言ってやれば、それぞれの顔に浮かんでいた気まずさに不服の色が少し混じる。


 が、そもそもコイツら一人一人が、ワイバーンの各個撃破実績を複数回持っている猛者たちだ。

 個々でもちゃんと出来る事なんだから、力を合わせて達成できない筈が無い。


 むしろそれだけ早く事が済んで然るべきなのだ、それこそ今回俺が介入した後みたいに。


「もしお前らにそれが出来れば、俺が毎回わざわざこうして呼ばれる事もないんだけどなぁ?」


 俺は完全に身の丈に合った世界――一般市民の一人として、街中で守られる生活を送りたい。

 なのにコイツらは、ちっとも凡人に配慮してくれない。


「そもそもお前ら、他の連中となら現場でかち合ってもそれなりに上手くやってるだろ。なのに何でお前ら同士になっちゃうと、こうも上手くやれないんだよ?」

「「「腹立つから」」」

「あー、もう何でだよ。幼馴染だろ」

「「「だってコイツら(この方々)、主導権を自分が握ろうとするし(しますし)」」」

「いやいやお前ら、むしろ仲良いだろ」

 

 綺麗なシンクロを繰り広げる3人に、俺は呆れてため息を吐く。

 


 結局のところコイツらは、揃いも揃って『英雄』への憧れが強すぎるのだ。

 その上なまじ互いの事を『自分が英雄になるための1番のライバルだ』と認めたているから、結局こうして『対抗心を剥き出しにするあまり、連携が損なわれる』なんて結果になってしまう。


 その大人げなさこそが、彼らを候補者に留める理由なんじゃないか。

 傍から見てて俺はそう思うんだけど、コイツらは果たして分かっているのか。


 もしかしたらいち早くそれを理解したヤツが、最も早く『英雄』に近付けるのかもしれない。



 どちらにしろ、もうドッと疲れてしまった。

 相手にするのも面倒になって「もう解散しよう」と1人、3人に背を向ける。


 と、ここで一つ、気になっていた事を思い出し足を止めて振り返る。


「あ、なぁところで、何でワイバーンが街中になんて入ってきたんだ? 魔物は街に入ってくる前に倒すのが定石だろ」


 そう聞いた瞬間だ、振り返った俺に今の今まで向いていた目が、綺麗に解散してしいったのは。


 何か知ってる。

 それも、明らかに「知られたらめっちゃ怒られる」とか思ってる。

 そんな目の動きだった。



 が、言いたくなさそうな彼らに更に尋ねようとしたところで「あ、あのぉー……」と声が掛けられる。


 振り返ると、そこに居たのは見知った騎士だった。


「あぁ、レブェー。どうした?」

「今回も、来てくださって助かりました」


 その言葉に「そういえば、さっきハルに聞いた時『呼んでたのは騎士だ』って言ってたなぁ」と思い出す。


「あぁじゃぁお前が俺を呼んだのか」

「はい、坊ちゃ――いえ、レオ様方の収拾がどうにも付かなそうだったので、僭越ながらわたくしが。セルジアートさんには毎回お手間を取らせて申し訳ない……」

「いやまぁははは……」


 元凶であるコイツらの前では迷惑である事を隠さないが、現場で揉まれいつも四苦八苦している彼らの事は、流石に拒絶もし難いものだ。


 コイツらの面倒臭さは知ってるし、特にこの問題児たちは彼等の上司に当たる相手。

 強くものを言えないのも道理である。

 


 しかしちょうどいい所に来た。

 3人の方は全く口を割る気配を見せないし、このレブェーはレオの護衛隊長だ。

 常に一緒に居る筈だから、事情も知ってる事だろう。


「なぁレブェー、何で今回街中での戦闘なんて事になったんだ?」

「あぁソレは……」


 言いながら、彼はチラリとレオを見た。

 レオはブンブンと首を横に振っていたが、そんな彼とレブェーの間に体を入れて「どうしてだ?」と改めて要求する。


 すると彼は、これで喋る大義名分を得たとでも思ったのか。

 理由を話して聞かせてくれた。

 曰く――。


「最初は外で討伐をしていたのです。ワイバーンは数匹おりまして、空を舞っていましたので、まずは遠距離魔法で打ち落とし、それを駆逐する方法で。しかしその、一体だけ少々魔法の当たり所が悪く……」


 お茶を濁したその物言いに最初に異を唱えたのは、ちょっと怒った風のカイルだ。


「それではまるで、魔法を放った私のミスのように聞こえるではないですか。アレはジークが悪いのです。そもそも正確に放った私の魔法軌道を、彼が剣で変えたせいですよ」

「何を言ってる。俺はただ自分に向かって飛んできた魔法を、自衛の為に弾いただけだ。その先に別のワイバーンが居たのは不運だったが、もしレオの指揮兵が俺の回避先に居たりしなければ、弾くまでもなく避けていた」

「何っ?! ジーク貴様、また俺のせいに……。だっ、大体カイルがコチラに何の報せも合図もなく、いきなり魔法をぶっ放すのが悪いのではないか!」

「レオ、今何と言いました……?」


 カイルの言葉を皮切りに、責任をそれぞれたらい回し。

 しかしなるほど、これで分かった。


「――黙れ」


 当時の状況を理解した頭で騒がしい3人に制止を掛けたら、思いの外冷たい声になった。

 しかし仕方が無いだろう。

 理解できてしまった結果が結果である。


「つまり何だ? お前らの想定不足や連携不足、そのせいでワイバーンが街中に墜落するなんて事態になったって……?」


 今日一番の怒り心頭の具合な俺に、3人の方が示し合わせたかのように一緒にギクリと飛び跳ねた。


「あ、ま、まぁそういう見方もできるかもしれないが」

「そういう見方しか出来ねぇよ」


 レオの言い訳に低い声でそう返せば、ジークノイルとカイルも続く。


「セルジお前、とりあえずちょっと落ち着けよ」

「まぁ今回は不慮の事故でしたし……」


 それぞれに取り繕っているものの、そこに謝罪などは無く、むしろ責任逃れをしている始末。


 もちろんこれは俺の前だから言える事で間違っても街の住民に言ったりする事はないだろう。

 分かっている。

 分かっている、が。


 

 俺は、満面の笑みでニコリと笑った。


「は・ん・せ・い! 出来ないんなら、お前らがこの街の『英雄』になれる日なんて永遠に来ない!!」


 そんなしょうもない事で、一般市民を巻き込むなバカ野郎どもめ。


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