第三節:説教&言い訳タイム
第9話 この大惨事は誰のせい
「で、お前ら。『配慮』はどこに置いてきた」
固い石畳の上に男を3人座らせて、仁王立ちでそう告げた。
大の大人が三人そろって、公衆の面前で怒られている。
それだけでもインパクトは十分だろうに、その相手が揃いも揃って『英雄』候補者たちなのだから、あまりにも残念過ぎる光景だ。
が、そんな事は今、割とどうでもいい。
「お前らちょっと周り見てみろ。大きなクレーターのせいで石畳はボッコボコ、周りの木々は焦げまくり。まるで踏み倒されたみたいに根元からポッキリいってる木もあるし……アレなんか、もう原型留めてない」
そう言って俺が指した先にあったのは、元噴水だった筈の、今や水が漏れる瓦礫と化した何かである。
「外ならともかく、町中だぞここは」
噴水は、町人たちの待ち合わせ場所。
周りの木々は、毎年少しずつ植林をして町ぐるみで育てている木々だ。
改めてそう指摘してやれば、流石に奴らも我に返ったのだろう。
反省皆無だった顔が、三者三様に僅かに歪む。
これでやっと、こいつらからの謝罪でも聞けるか。
そう思った時だった。
「あのクレーターはジークのせいだ」
あくまでも自分に非はない。
ボソリとそう口火を切ったのは、領主の息子のレオである。
言いたい事はあるが一旦置いておいて、とりあえず名指しされたジークノイルへと視線を向ける。
が、彼との視線が頑なに合わない。
「……アレは、お前の所の騎士どもが地味に邪魔をするからだ」
「何だと?! お前、俺のせいにするつもりかっ!」
「現にお前の兵運用のせいで、こっちは何度もワイバーンを仕留められたところを、機会損失している」
自分のモモを鎧の上からガンッと叩いて「言いがかりだ!!」と騒ぎ立てたレオは、心の底から怒っている訳ではない。
いつもの幼馴染同士の言い合いだ。
それを分かっているからか、少し遠巻きにしている周りにもピりついた空気は微塵もない。
が、ないからいいという訳でもない。
一方のジークノイルの方は、平坦なトーンでこそ話をしているものの、表情にはありありと不満と抗議の色が見て取れる。
両者、納得していない。
つまり自分のせいも少しはあるとは分かっているが、どちらも自分が主犯である自覚はないのである。
「俺の剣の届く範囲をチョロチョロチョロチョロさせておいて、よくそんな事が言えたものだな」
「自分の落ち度を俺たちのせいにするな! 大体お前がもっと周りと上手く連携するように動けば済む話だろ!」
「一人で事足りるのに、わざわざ集団に寄り添わなければならない意味が分からない。これだからパーティー戦信者は」
「何だと?!」
大声で威嚇するレオに、ひどく心外そうなジークノイル。
2人の言い分は平行線、どちらからも反省の色は見えない。
そんな両者の間に、ため息交じりのすまし声が一つ割り込んできた。
「実に不毛な争いです。流石に、見るに堪えません」
ここまで大人しく会話の推移を見守っていたカイルは、まるで『自分は違うけど』とでも言いたげだ。
彼もまた、自分が主犯である自覚はないのだろう。
が、レオが抜け駆けを許さない。
「お前だって広場の木を燃やしまくった張本人だろうが! 一人で『自分は無関係』みたいな顔をして、卑怯者!」
隣をビシッと指さしつつそう声を張り上げた。
たしかに、あの場で魔法を使っていたのは、カイル率いる教会の人間だけだった。
実際に彼自身が燃やしたのではなくても、彼の部下に類する人間の魔法が当たってああなったと思うのが自然だろう。
実際に、その点についてはカイルも特に言い訳の必要を感じていないようだった。
「人聞きの悪い事を言わないでください。私に広場を燃やす意志など毛頭ありませんでしたよ」
カイルはメガネをカチャリと押し上げる。
が、平然とそう言ってのけてしまえるカイルの肝が、あまりにも据わりすぎている。
「でも、現に焦げている! お前ら意外に火魔法を使ったやつはいないんだから、お前ら起因以外の何物でもない!」
「アレは……ワイバーンが避けたり跳ね返したりしたせいで、結果的にちょっと火が当たっちゃっただけでしょう」
「はぁ? 『ちょっと』? ちょっとでこんなに焦げ焦げになるか!」
まぁ、これには俺も同意だ。
実被害の詳細はまだ定かではないが、俺も目算ではこの広場全体の木の5分の1は焦げているという印象を受ける。
たとえそれが木の表面だけの被害だったにしろ、もしこれを本気で『ちょっと』だと言っているのだとしたら、あまりに常人とズレた価値基準だ。
……まぁ今回は、ただすっとぼけているだけだろうけどな。
「今大事なのは故意かどうかなんかじゃなくて、目の前の結果だからな! 地面を割ったジークも、木々を焼いたカイルも、明らかに謝罪の必要がある!」
レオがそう言い、胸を張る。
その得意げな顔といったら、さも「言ってやったぞ! これには反論できないだろう!」とでも思っていそうな表情だ。
が、正論ではある。
流石にこれには二人もぐうの音も出ないだろう……と思ったのだが、この中で最も繊細そうな顔や見た目をしておいて、カイルはかなり神経が図太かった。
「ほう? 『大切なのは目の前の結果』ですか」
それはいい、と言いたげに、カイルが口の端に笑みを浮かべる。
「ならば現状を、新たな結果で上書きすれば文句などありませんね」
そう言うと、カイルはスッと手を前に出した。
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