『御花畑共和国』
やましん(テンパー)
『御花畑共和国』
『これは、ナンセンスな、おとぎ話です。』
カピバナ星人が率いる、大宇宙征服団は、地球全体を、わずか3日で制圧し、支配下においたのである。
しかし、カピバナ星、ノートリア朝の女王、アラベスクは、地球上に、ひとつだけ、地球人の独立国を残すことにした。
地球上にある、国という国が立候補したが、女王が選んだのは、太平洋上に浮かぶ小さな島、『御花畑島』であった。
なぜか、東京府が望まなかったため、古くから千葉都が管轄していた、周囲17キロほどの、火山以外は何もない島である。
火山島とはいえ、有史以来、噴火は確認されていない。
地質学者の調査によれば、この火山が前に噴火したのは、五千年前であるという。
しかも、1回だけのようで、その前となると、さらに2万年よりも前みたいである。
地質は、農作物の栽培には適さず、漁業が主な生業だ。
人口は、150人ほどである。
女王は、この島を『御花畑共和国』として認定した。
そうして、島の中央にある火山の、より古い火口付近に、自分専用の別荘を建てたのだ。
島では、村長さんが、そのまま、大統領となった。
早い話し、女王は、誰が大統領でも、良かったのだ。
彼女は、残酷で、人間を餌にもしたが、この島だけは、絶対平和地区に指定し、人類を傷つけるような行為は、また、その逆も、一切禁止した。
一方で、外部から入ることは、例外以外は禁止とされ、亡くなった人の数だけしか補充しなかった。
そうして、島の人間にだけは、信じがたいほど親切で、温かく接した。
なにかの技術で、沢山の植物を育てて、島は御花畑みたいに、沢山の花花で溢れた。
皮肉な島の名前は、本当になった。
女王は、地球の音楽がいたく気に入ったので、昔ながらのラジオで良く聴いては、たまに、アーティストを島に招いたが、島の中では、島のやり方を貫いたのだ。
あるとき、女王に大変に気に入られた、青年ピアニストが、島にやってきた。
女王は、周囲から見ても、異常なくらい、ピアニストを大切にした。
ピアニストも、また、相反する気持ちを抱えていた。
あるとき、彼は、命がけの積もりで、女王に尋ねた。
『なぜ、この、島だけなのですか? ぼくの両親も、兄弟も、あなた方に食べられたのに。また、なぜ、あなたは、それを知りながら、こんなに、ぼくを丁重に扱うのですか? ぼくは、必ずや、あなたを殺したいと思うのに?』
女王は、答えた。
『自分の住みかで、ゴタゴタは起こしたくないもの。それだけだ。もし、あなたが、あたくしを殺したければ、この島に住めばよい。チャンスは必ずあるだろう。ただし、それは、まず不可能だ。あたくしは、不死だから。あなたが何をしても殺せない。試してみなさい。どうやってもよい。しかし、それでも、自由がほしければ、島から出て行きなさい。ひたすら、音楽がしたければ、愛が必要なら、いつまでも、ここにいなさい。あたくしとともに。』
『社会と断絶した音楽に、意味はない。』
彼は女王に襲いかかったが、まったく、無意味だった。
なぜだか、殺すべく、手が届くところまでは、どうしても行けなかった。
これほど、近くに寄り添っても。
本当は、行けたのだ。
そのはずだったが。
女王は、そのまま、彼に自分を与えて良いと思っていたのだから。
結局、彼は、意地を通して、島から出ていった。
その、500年後、地球は、大地殻変動を起こし、生物の98%が絶滅した。
女王は、まったく変わらずに生きていた。
ついに、征服軍は、地球から撤退したが、女王は、なぜか地球に残った。
それは、自殺行為だった。
次第に、食べ物が、なにも、なくなったからである。
女王は、自らそれを選んだのだ。
誇り高き女王の、最後の選択だった。
地球に未曾有の大地殻変動を起こさせたのは、あの、青年ピアニストの子孫たちだった。
それは、地下に潜った、人類の子孫である、地球地底人である。
地球人類とは、もはや、違う種になってゆく途中だったのである。
彼は、いまや、その神として崇められていた。
本人は、もちろん、知らぬ話である。
『御花畑共和国』は、島と女王と共に、地底深く水没した。
地球は、新しい時代に入ったのである。
ただ、それだけのことだ。
あのときも、女王は、自分の立場は崩さなかった。
ピアニストも、自分の立場は、崩さなかった。
壊せば良かったのに。
それは、簡単なことのように思われる。
障害になるものは、なにもなかったはずなのに。
過ぎ去った時間は、誰にも取り返せない。
どんなに、悔やんでも。
『御花畑共和国』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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