第4話 王女の嘆き

 陽の当たらない場所を選び、日陰になっていた、東屋に三人はいた。

 殺気立った衛士たちの声に、彼女たちは肩を震わせる。

 何かあったのだ。


 衛士たちが、それぞれ武器を片手にして、走りながらこちらにやって来なければならないような、何かが。

 少しの間を置いて、東家の前に衛士たちが整列する。


 それは、仕えるべき王族に対して向けられたもので。

 しかし、彼らの怒りに燃えるその瞳は、まだ力を失っていない。

 これは僕に向けられたものだ。

 ルークは幼いながらに、そう悟った。


 彼らは王女たちを捕まえにきたのではなく、ルークを目指してきていた。

 一番先頭に立つ、隊長とおぼしき男が、口を開いた。


「ゼイワード伯爵令息ルークだな?」

「そうですが‥‥‥」

「捕まえろ」


 冷徹な一言。

 それが発せられるとともに、傍若無人な暴力が、ルークを襲う。

 二人の衛士が、凄まじい力で三人を引き裂いた。


 一人引き離されたルークは、腹を蹴られ、顔を殴られて、顔を朱に染める。

 そのまま、庭園の大理石の床におしつけられて、後ろ手に腕を縛られた。

 ギリギリと締め上げる縄の痛みが、恐怖に怯える少年の心を、さらに追いつめる。

 全身がこれまで味わったこともないような痛みに支配された。


「うあっ!」

 悲鳴が漏れる。


 いきなりのことに怯えて二人で固まったまま震えていたアミアが、それを耳にして、声を上げた。


「ルーク! やめなさい、彼に手を出すことは許しません!」

「罪人なのです」


 王女の命令は聞き入れられなかった。


 罪人?

 一体だれが?

 ルークの心にそんな声があがる。

 悲鳴をあげたいけれど、それは騎士としてふさわしくない。

 反論をしたいけれど、それは不名誉なおこないだ。

 それに、庇ってくれたアミアと、目に涙をためているセシルの前で。

 これ以上情けない格好は見られたくない。見せたくない。


 男の意地がある。


「誰が罪人ですか! ルークはいままで、私たちと話をしていたじゃない!」


 気丈な王女は、そう言い、隊長に詰め寄っていた。

 妹のセシルも姉に元気をもらったのか「ルークをいじめないで!」と叫んでくれた。


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