第3話 無力な少年

 上には透けるような真っ青な空。

 周りには目が痛くなるほど燃えるような緑。

 そして、彼らが身につけている衣は、深い血の色にも似た、紅。


 十数人の男たちが庭園のなかに、足と踏み入れると、まるでそこかしこで炎が踊っているように見える。


「なんだ、あれ?」


 最初にそれを目にしたとき。

 少年はそう呟いた。


 大勢の男たちが、王宮の壁の向こうから、こちらに向かいゆっくりと駆けよってくる。

 初夏の新緑に溢れる庭園に、彼らのすがたは、なぜか似つかわしくなかった。

 彼らは忙しげに、こちらに向かって近づいてきた。


 口々に、彼と目のまえで話をしている彼女たちの名前を叫んでいた。

 距離にして、十数メートル。

 数は十数人ほどで、誰もがその手に槍や棒を構えている。


 王宮を守る近衛衛士たちだった。


「……何があったのかしら」


 姫様、アミア様、と自分の名前を呼ばれて、彼女は顔をあげた。

 世間の喧騒や街の賑わいといったものから隔絶されたこの世界に、彼らが巻き起こす騒がしさはふさわしくない。


 もちろん、王女アミアだって、そんなものに晒されることは慣れていないはずだ。


 ドカドカと無遠慮に足を響かせてやってくるその様に、アミアの妹、王女セシルは泣きそうな顔をしていた。


 無理もない。

 アミアはまだ八歳だし、セシルはまだ四歳だ。

 そして、二人の手を片方ずつにぎりしめている少年はまだ六歳。

 彼女たちを守ろうとしてもそれは叶わないかもしれない。


 ルークはここにくる前に、父親と約束をした。

 それは小さな騎士として二人の王女守ります、そんな約束だった。


「姫殿下たち。大丈夫です、僕がいますから」


 何も大丈夫なことはない。

 自分にできることなんて大したものはない。

 それが分かっていてもなお、自分を慕ってくれる彼女達を裏切るわけにはいかない。


 少年はたちあがると、二人を自分の背中に庇うようにして立った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る