私と小鳥と鈴と

そよかぜ

第1話

私と小鳥と鈴と

キラキラ眩しい光が目に入る。

ああ眩しいなぁ綺麗だな。

「私が両手を広げてもお空はちっとも飛べない」

これは誰でも1度は耳にしたことがあるだろう。

むかーしむかしに生きてたとされる金子みすゞの遺した詩のワンフレーズだ。

私はこの詩が大好きで大嫌いだ。

この世界のルールは至って簡単。

自分より上位の階級の者には文句は言わない、言えない。ただそれだけ。

階級は主に3段階だ。

元貴族など金持ち集団で形成されてる一軍。

(テレビに出てる売れっ子芸人やアイドルを含む)

二軍は成金族やテレビに出てるものの人気が下火になってきた者たちなどが含まれている。

そして三軍は言わずもがな私たち平民だ。

(四軍と言う犯罪者がなる最下位層もあるが関係ないので省く)

この階級は生まれながらに決まっているもの。

階級1段登るのには大量の金と才、そして環境が必要だ。

テレビに出てるあの子たちは相当努力してきた子、

もしくは親のコネなのだ。

トウキョウには私たち三郡は行っては行けない。

というかここから私たちは出れない。

トウキョウへ出るには8人家族が1年不自由なく飯が食べられるくらいの金が必要だ。

少子化が進み、8人家族なんて滅多に居ないものの、大体みんな兄弟はいる。ひとりっ子家庭なんてトウキョウにも居ないかもしれない。所謂都市伝説だ。

もしかしたら21世紀の頃にはあったのかもしれない。けどそんな昔の頃なんて考えてたってしょうがない。

だって地球…だっけ?前人類が住んでたのは…

その惑星は未知のウイルスで25世紀に滅びたってこの前の宇宙史で習ったばかりだ。

人は歴史を繰り返す。地球がダメになった人類は別の惑星をみつけ移り住み、領地をかけ戦争し、そして和解した。

それが今の世の形だ。

奴隷では無い。きちんと衣食住は守られる環境にはある。

けど上を望むことは許されない。

トウキョウへ行くのはいけて二軍…。

しかし行っても下働きだ。

男子は良い。

中学卒業後、15年兵役でトウキョウ・ナゴヤ・オオサカへ行けるから。

女子はこの地で子を産むため家を残すため結婚出産なのだ。将来なんてあってないようなもの。

学んでいる知識だって家に入ったら必要ないのだ。

私はそれが嫌だった。

引かれたレールの上を走るだけの人生なんてなんの意味があるんだ。

私には私の人生があるんだ。

そう思っていた。

そんな時このフレーズを目にした。

「私が両手を広げてもお空はちっとも飛べない」

まるで私たちを指しているかのように聴こえた。

『お前らは三軍なんだよ。そこで大人しくしとけ。どうせなんにも出来ないんだから』

金子みすゞさんを蔑む訳では無い。けど私にはそう聞こえたのだ。

私だって空を飛べるはず。幼い頃からずっと見上げてきたあの空。今飛んでいるのは一軍のパイロットが操縦しているであろう旅客機。

一軍が飛ばせれるのだ。一軍だって私だって同じ人間。ちょっと生まれる環境が違っただけだ。

父さんの負けず嫌いの性格を継いだ私、母さんにも「もっと女の子らしく状順になりなさい。でないと貰い手が付かないよ。」と言われ続けた。

母さんごめん…。私は私の人生を歩むんだ。

そう決心した後私の人生はごろっと変わった。

まず立てた計画はバレないように勉強をすること。

三軍でもパイロットになれるのか、女子でもパイロットになれるのか調べるとこから始まった。

弟3人、妹1人の面倒を見ながら図書館へ通う日々…

近所の人からは「あら、珍しい。勉強か何か?けどあなたもう中学卒業よね…?あっもしかして旦那様のためにレシピでも調べるの?」と言われ「あっ…まぁ/////」と誤魔化したことは何回だったかなぁ…

カモフラージュのためのレシピ本何十冊と読んだなぁ

そのおかげで今はスイーツに肉系、魚系なんでも作れるようになった。

ってまぁそれは置いといて、私は日々図書館に通った。女子も制度上中学3年まであるが3年になって学校へ通う子の方が少ない。大体は家の手伝いか花嫁修業で学校へは来ない。

それは私にとって好都合だった。

朝から晩まで弟たちを連れ図書館へ行き本を読み漁った。母さんには何度か何をしてるか聞かれたが、「旦那様へのレシピを見てる」と言って誤魔化した。

父さんには嘘はバレると思ったから何も言わなかった。けど父さんも何も言ってこなかった。もしかしたら勘づいていたのかもしれない。

そして明くる日、私は見つけた。

図書館にある50年前の新聞の中にパイロットについて書かれた備考欄に小さく小さく載ってる三軍のパイロットの事を。

それはそれは小さい記事だった。

しかも書かれているのは名前と年齢、性別だけ。

「えっ…やっ…!!」

それでも私はすごく嬉しかった。

やっとやっと見つけたのだ。

三軍でもパイロットになれるということを。

女子でもパイロットになれるということを。

それからはパイロット試験について調べ、申し込みをした。

調べてみたらパイロットになる資格に性別は関係なかった。一軍の女子も多く志望してるようだ。

こっからは努力努力努力。

ひたすら勉強した。

あっちは環境が整ってる。私の倍以上、幼い頃からパイロットへの英才教育を受けてきている一軍。

頑張れ私。

負けるな負けるな。

そうやって机にかじりつき勉強してきた。


もちろんたくさん白い目で見られた。

中学卒業後、結婚もせず、家に入らないと分かってからの近所からの目、結婚するのがあたり前と思っている友からの蔑んだ目…。

パイロットになりたいと明かしたその日、母さんは泣いて頼んできた。

「頼むからっ…頼むから普通になって…?結婚して子を産んでよ!!母さんもう辛いの。ご近所さんになんて言えばいいの?ねぇ!ねぇったら!」

なんとも言えなかった…。

「ねぇっ!聞いてる!?女は勉強なんてしないでいいの!」

耳が痛い…。

「ねぇっ!」

胸ぐらを掴まれた時、父さんが止めに入った。

「止めないかもう…。これはお前の人生じゃないんだよ。俺が近所の連中には言っとく。もうコソコソするのは止めろって。から止めてくれ。応援してやろうじゃないか。この子はずっと耐えてきた。お前や俺が忙しい時ずっと下の子達の面倒を見てた。しかも勉強しながらだ。一軍様は親にしてもらう試験の申し込みだって自分でやってきたんだぞ?どちらにしろ申し込みしたならもう引き返せない。応援してやろうじゃないか。」

父さんはそう言い、私の前に立った。

The頑固オヤジの父さん。1発殴られると思ってぎゅっと体を固めた時、父さんの大きな手があたまに降ってきた。

キタッ…。

クシャッ…。

「えっ…?」

頭を殴られるのではなく撫でられた。

えっ…?

「ごめんなぁ。父さんが三軍で。夢なんてあってないようなものだっただろ。けどお前はその枠を抜け出そうと努力した。それは認める。今までありがとうな。」

そう言ってくれた。

顔を上げると滅多に泣かない父さんが泣いていた。

「父さん…」

「ごめんなさいごめんなさい…けど私はどうしてもパイロットになりたいの。諦められなかったの。」

父さんの顔を見た時、今まで我慢してた涙が溢れ出てきた。この夢を叶えるにはひとつ大きな代償がある。

それは『軍属を超えて行動を起こす場合、その出来事がどうなろうと、その者はもうその軍へは戻れないとする』という法律

要約すると『身分違いのことするなら責任とってね〜失敗してももうそこへは戻れないよ〜家族の縁も切れるよ〜』ってこと。

つまり私は家族との縁を切らなくてはならかった。

涙で濡れた父さんの顔。

父さんは涙をグイッと手で拭い、いっそう強く頭を撫でた。

「よしっ!行ってこい。お前はもう俺の子ではない。」

「父さん…」

辛い言葉だった。けど仕方がない。

もう私はこの家の子では無いのだ。

「さようなら」

そう言い残し、私は家を後にした。もう戻れない。

楽しかったあの頃に。母さんの匂い、怒鳴り声、父さんの笑い声、弟達の走り回る音…

全部全部鬱陶し買った。うるかった。けどもう聞くことは無いんだ。聞けれないんだ。

「気をつけるんだぞ!!」「頑張れ!!」

「無理はしないでね」「あなたは出来る子!信じてるわ。ここで。」

背中越しに母さんと父さんの声が聞こえた。

今振り返ったら、戻ってしまう。

ダメだ。

そう思い、駆け出した。

母さんと父さんの声を耳に残し…。


トウキョウへ着いた私。

パイロット試験へは無事合格した。

一軍が沢山いて不利な状況だった。

笑われだってした。

こんなとこに三軍が何しに来てるんだって

「畑はアッチですよ〜間違えちゃったかのかにゃ?」

指さして笑われた。

けど私は逃げ出さなかった。

母さんと父さんが最後に言ってくれた言葉を心に秘め、試験に挑んだ。

無事合格出来た。


今日は初めて1人で飛行機操縦を任された。

緊張する。

けど母さんに言われた「信じてる」

これを胸に秘め、操縦かんを握る。

「皆様、本日は☆♪○航空のご利用ありがとうございます」

アナウンスが流れた。

いよいよだ。

さぁ見てろ。

三軍だって努力すれば夢は叶うんだ。

意を決し、前を向くとあの時とおなじ、眩しい青空がどこまでも広がっていた。


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