5 屋上での決戦(一)
さて、あたくしたちは屋上へ向かっていたんでございます。
「ん?」
あたくしの腕の中で、ブチャ公がひげをぴくり、とさせました。
「こりゃ、ションベンたれの言うことも、寝ぼけてじゃあないらしいな」
なんでこの猫は自分で階段を上がろうとしないんでしょうか。腹が立ちますが、妙な気配のはなしは妖怪に聞くのが一番でしょうから、聞かないわけにもまいりません。
「確かに今、この町の上空に、へんなものが居座っていやがるようだぜ」
「ええ、困りますねえ」
綱木くんは時々、焦る、慌てるということを忘れるようなのです。こんなことを言いながら悠然としています。
「ま、八重子さんやブチャ公先生におまかせすればよろしいんでしょ?」
「ふざけたこと言うない!」
「はっはっはっ」
どうしてこんなときに笑えるのか、あたくしにはわかりませんが、とにかくみんな屋上に着きました。
「八重子さん、いったい何が起こっているんです?」
今日は天気も悪くないし、地震も起こっていません。世界が闇に堕ちる予兆などどこにも見当たらないんですが。
「これからじゃ」
八重子さんは、澄みわたる空を見上げ、そうおっしゃる。さすが学区一の美少女、清涼飲料水のCMのような絵面になっております。爽やかです。
「これから、あすこに時空の穴が開く」
あっさりと、飛んでもないことを言われましたよ。
「そうだな。そんな匂いがすらあ」
ブチャ公までそんなことを。
「おい、お前ら、覚悟しとけよ」
「え、具体的にはなにを?」
「これから起こることの言い訳考えておけよ。綱木、お前得意だろうそんなの」
え、じゃああたくしは特にやることないじゃありませんか。一緒に戦うとか、ないんですか八重子さん?
「これからあそこから現れるものを、わしは打ち払う」
「ひとりで?」
「ひとりでも力が余る。お前は案ずるな」
時空の彼方からわざわざ来るのは雑魚キャラ?
「わしだからひとりで打ち払えるが、仕損じればこの世が闇に堕ちるのはまことじゃ」
「どういうことです?」
「やって来るのは、わしの五度目の転生先、大魔道師グレイシア公爵夫人として生きた時に討ち滅ぼした、魔王コアントロオじゃ」
魔王じゃ、手強いんじゃありませんか。
「その怨みの強さから復活し、わしひとりを狙ってここへ来るようなのじゃが……まあ、見ておれ」
「降ろせよ」
ブチャ公があたくしの腕からひらり、と降りました。
「啓太、綱木、俺っちに隠れてな!」
空を見れば。
確かに真っ黒い穴が、雷をバチバチいわせながらぐんぐん広がっているじゃありませんか!
「ほらよ!」
むくむくと大きくなり、あたくしと綱木くんをもふもふと抱きかかえます。
「暑!」
「いやあ、ブチャ公先生のモフモフを体感できるなんて、得がたい体験ですなあ」
魔王と聞いても、あの異空間の穴を見てもこの調子な綱木くんのことが、あたくし少々こわくなってまいりました。
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