第2話美術部部長①

僕は美術部の部長を二年生の6月から務めている。

一年生の時に、油絵で伊勢エビが張り付けになっている「ゴルゴダ」が、県の作品展で入賞したからだ。

全校朝礼の時に賞状をもらった。だから、部長になったのだ。

美術部ではあまり、キャプテンとは呼ばれないが、顔が脂でてかてかしている、山口慎太郎は、僕の事をキャプテンと呼ぶのだ。

ある日、一人で大作を作成中に、

「北京、ダブリン、キャプテン、マラリア~」

と、歌いながら美術室に入ってきた。

「おい、山口!キャプテンマラリアってなんなんだ!」

「PUFFYだよ」

「歌詞が違う違う!」


山口はラッセンを目指しているのか、イルカをよく描いている。

油絵とは、キャンバスに絵の具塗るのではない。乗せるのだ。

僕は、学ランを脱ぎワイシャツで作成していた。油絵の染みは、洗い落とすのに苦労する。

だが、山口は学ランを脱がない。

僕は自販機にコーヒーを買いに席を外し、直ぐに戻ってくると、山口は学ランを脱いで、絵の具落としの液体をかけて、必死にタオルで拭いている。

近付くと、学ランの背中に赤い絵の具をべったり付けていた。

最初は袖口かと思い、袖口の絵の具を落とす為に脱いだら、何故か背中も汚していた。


「ざん~こく~な、絵の具のよ~に、少年よ、珍話にな~れっ!」

と、僕が歌うと山口は、半泣きでタオルとブラシで格闘中であった。

すると、顧問の小園先生が現れキレイに絵の具を落としてくれた。

その日を境に、山口は学ランを脱いで作成を始めた。

ラッセンには、程遠い作品になった。

僕は抽象画を完成させ、「アレルゲン」と題して、県の美術館に展示された。

山口君は落選。だって、パクリだし、デッサン力がないのだから。


三ヶ月後に描いた「アレルゲン2」は、箸にも棒にもかからない作品となった。

山口が、

「たった一刃の包丁で、料理界の全てを塗り替えた、三人の鉄人たち。中華の陳建一、フレンチの坂井宏行、和の道場六三郎。今、揃い組しました」

「で?」

「さ~、寺田よ!誰と戦う?」

山口は料理の鉄人のファンなのだ!

「じゃ、バカの山口慎太郎!」

「お~と、バカ呼ばわりされた、私が直々に倒します!」


「私は悩みました。この若き二人に必要なテーマは何か?静物画、風景画、いや、一つ残っていました。脱ぎ脱ぎといえば、今日のテーマはこれです。裸体画ッ!」


話しは続く。


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