第一章 胡人奴隷
一之一 死罪
その日、俺は死んだ。
城門が背後で閉ざされる重く苦しい音を、俺は呆けたように聞いていた。今はまだ息をし、歩く事ができる。ただ六つの面全て「
俺にその
庭に引き出され左右を固められた俺を、
いちばん
死罪――。そう記されている。
今最も権勢を欲しいままにしている
「
畳座の上から俺の目を見下して、景監は、ほっほっと笑った。
「天津よ、
景監に逆らえば、釜茹で、八つ裂き、さらには仙術を用いた最も酷い責め苦までもが待っている。城下の万民が知るところだ。
「
まだ宦官になって間もない
「その方も知っての通り、
「まさにのう……。それで」
景監が、顔を寄せてきた。
「神木が失われ、土地神は次第に衰えた。土地神が衰えれば、神木の
「そこで……ひとつ話がある」
声を潜め、沙衛は、思いもよらぬ命を投げてきた。
「
「波斯へ……」
「いかにも、波斯じゃ」
沙衛は、俺の
知る限り、扶桑一万二千年の
「波斯は、遙か遠くにございます」
俺の返答に、沙衛は目を細めた。
「知っておる。だからこそ、
「見ろ、天津よ」
景監が天を指指す。見ると、ひとふたりほどもある
「おひょうだ。もう空を飛んでおる。その方もよく知っておろう。おひょうは潮目変わりを告げる魚。今年、西の辺境を目指すなら、もはやあまり時が残されておらん」
「断ればどうなるか、わかっておろうな」
景監が微笑む。
「なに、ちょっと行って戻ってくるだけだ。お前には五年を与える。……例のものをここへ」
仙宝の調べ処が、
俺の首に巻くと、調べ処は
「終わったようじゃな」
調べ処が離れると、財物を見定めるかのように、沙衛が目を細めた。
「首飾りは、もちろん仙宝よ。外せるのは儂らだけ。その方がどこにいようと、いつでもこちらから砕き壊せる。勾玉が割れれば、首が落ちる。まあ死ぬであろうのう、
くっくっと含み笑いする。
「せいぜい早く戻ってくる事だ、天津陽高殿」
景監は、からかうような口調だ。
「恐れながら景監様」
「なんじゃ、天津よ」
「いかな神木船と言えども、波斯への往き帰りともなれば、恐らく途上で海の
「だからどうした。それを成就させるのが、
「この天津は、もちろんそのように努めます。ただ
頭を深く下げる。
「ふん」
「たしかに船頭ひとりで動かせるはずもなし。力ある船人が求めは、申す通りじゃ」
三人の宦官は、額を寄せ、
「では決めたぞ」
昌光が一歩前に進み、白石番を通じて巻紙を渡す。
「読んでみやれ」
巻紙を大きく開く。白砂に広がり落ちた巻紙には、
「これは、船人ひとりひとりへの
「そうよ」
昌光が冷たい目で言い放つ。
「いずれも宗徳様の温かい御心。無事お務めを果たし、
俺は頭を下げたままで聞く。
「金子もう五百両と、その首の飾りよ」
「外していただけるのでしょうな」
「そう申しておるではないか」
「ではその旨、ご一筆を。また船人への褒美は、手形にしたためご城主の
俺が顔を上げると、沙衛が楽しそうに顔を歪めている。
「それよそれ。そのくらいの
「波斯でなにをすればよろしいのですか、沙衛様」
皺だらけの顔から、鋭い瞳が覗いた。
「そこよ……。実は――」
■注:
掛け合い 交渉
おひょう この世界で幾種かいる、空を飛ぶ魚のひとつ
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