第9話 陰キャの俺、復讐を成し遂げる(アヤネ父・新世界編)
《アヤネ(父)視点》
原色のネオンが煌めく店内。
キャストたちの嬌声と客たちの笑い声があちこちではじけている。
「バルちゃ~ん、3番テーブルおねがぁ~い」
ママの声でオレは常連客の待つボックス席へと向かう。
「毎度どぉも~っ!バルミューダ・トリニティでぇ~~っす♡」
ピンク色のロングヘア―のかつらに大胆にスリットの入ったスケスケのチャイナドレス。
真っ赤なルージュにラメ入りのファンデーションを重ね、緑色のカラーコンタクトを装着したオレは全力で腰を振りながら挨拶する。
「バルちゃぁ~ん、ひさしぶりぃ」
ベロベロに酔っぱらったハゲ頭の中年客がオレを出迎える。
席へとついたオレに中年客はぴったりと密着する。
「いやぁ今日が待ち切れなかったよ」
中年客が笑いかけながら、スリットから覗くオレのふとももへと手を伸ばしてくる。
「だぁめ、また……あとでね♡」
オレはパチリとウインクをしながら中年男を軽く交わす。
☆☆☆☆☆☆
はじめはこんなことになるなんて思ってはいなかった。
オレは娘の夢(タイムマシン開発)を打ち明けられ心から感動した。
それは非常に意義のあるプロジェクトに思えたからだ。
オレはただちに娘の夢(タイムマシン開発)を全力で応援することにした。
タイムマシン開発のための拠点さがし、開発に必要な資材の供給ルートの確保などてんてこまいの日々が続いた。
しかし経費は当初の予算を大幅にオーバーし、預貯金はすぐに底をつく。
妻にもスーパーのパートに出でもらったが、焼け石に水の状態であった。
銀行と消費者金融のカードローンの限度額もすぐにいっぱいとなり、やがて月々の返済に追われる日々が続く。
そんな中オレは借金額をひとまとめにしてくれるとの理由で、いわゆるヤミ金と呼ばれる業者に手を出してしまう。
しかし結局は毎月の利子の返済だけでキュウキュウとすることになってしまう。
借金返済のため、オレは皿洗いや害虫駆除など様々なアルバイトを掛け持ちした。
結局それでも間に合わずオレはついに歌舞伎町でゲイバーのキャストとしても働くこととなった。
勤務先はキャスト応援型ゲイバー〈おとめ色プロジェクト〉という新興のゲイバーで、いま一番勢いがあり時給も他店に比べ二割ほど高額であるらしい。
しかしそんなオレの奮闘も空しく、勤務先である区役所には取り立てのガラの悪い男たちが次々と押し寄せて来た。
同僚たちの白い視線はオレにとって針のムシロであった。
妻にも昔の知人を頼っての金策に駆けずり回ってもらったが、まさに家計は火の車と化していた。
結局オレは居づらくなった区役所を辞職し返済のためその退職金もすべて失うことになった。
かくして最終的には自宅不動産も差し押さえの憂き目を見ることと相成ってしまったのである。
今は妻の知り合いに紹介された古いワンルームアパートでなんとか生活している。
☆☆☆☆☆☆
薄暗いラブホテルの一室。
オレはベッドの上でうつ伏せに横たわっている。
タバコの煙が漂うすえた空気の中、えも言われぬ気だるさだけがオレを支配している。
隣りに寝そべっている汗まみれの中年男が、イヤらしい手つきでゆっくりとオレの背中を撫で回す。
「バルちゃん、もう一回いいかい?」
オレはうなづき、男に向かって妖しく微笑みかける。
「ねぇ……来て♡」
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