5,炎の黒犬VS小さな黒羽

 バタッ

コウモリモドキは“ドラキュラの黒羽をパクった”であろう羽がクッションに

なったのか静かに倒れた。

(この野郎、虫嫌いなのかな?)

ブクブクブクブクブクブク・・・・・・・・・・

コウモリモドキは泡を吐いていた。こいつ、マジで弱いのね・・・と、その時!


ペチン!!!!

(????)

そのまさかである。人間モドキと狼男が同時にコウモリモドキの頬を叩いたのだ。

見事なほどにスッキリ、痛快なペチンの音。グレイスは思わず聞き入ってしまった。


「どうやら、こいつのようだな」

「よ~し!!ボクシング技で倒してやるぜ!!」

狼男はボクシングしてるんだ・・・・・って考えている暇もなく鋭い爪が生えた拳が

振り下ろされた。

ヒラリ

(あぁ・・・・・危なかった)

拳の先のかぎ爪から2㎝ほどしかないところに着地した。


「今度は俺がやる」

次に人間モドキが手のひらを全開にして私の頭上に迫る。

ヒュッ!!!!

タッ!!!!

間一髪のところでコウモリモドキの頬に着地した。


「なあ、アレキサンダー。ポチ呼んだか?」

「呼んだ。スカイラーと一緒に来るって」

「真っ青か・・・・・」

ポチ?ひとまず、犬が迫ってるらしいのでグレイスは植え込み風に避難した。


 それに気づいたのはネギをいくつか取ってきた時だ。地球上からネギはほぼ消えて

しまったが私が大切にとっておいたものがあるのでそれを植えている。ネギは畑の

土づくりになる。まあ、それでネギと畑の土を持って帰ってきたわけだ。


ネギを切ってもらおうと思ったのに――いない。そして、しばらく探し回っていると

小さなコウモリを見つけた。ワイングラスのマークが羽についていたから、マスター

だと分かった。


「ねえ、マスタ~!グレイスがいなくなっちゃったんだよぉ~!」

「なぜ」

「いないもんはいないんじゃ~ん。知らな~い?」

「う~ん~、それより、新しくいたか?どっか良いとこあったか?スイギュウ。」

「え~、見つけましたよ!スイギュウっぽい牛がいたので・・・・・高いところを

見ると飛びたくなるらしくて・・・・・まあ、着地できるから大丈夫——って!」

全然答えになってないやないかい!私はグレイスがどこに行ったかを聴きたいのに!


「ねえ、グレイスは・・・・・」

「グレイスね。知らないよ。分かった、私が行こう」

「え、ちょっと待って。私も・・・・・」

「シャーロットは店番だ」

「・・・・・・・はぁい!」

ルイクルはワイングラスのマークがついた黒羽を広げた。そのまま、目では追えない

速さで飛び立っていった。


 何がどういうことだろう。犬じゃなかったの?いや、犬は犬だけど・・・・・炎を

まとっている!!

「ガウガウガウガウガウガウガウガウガウガウ!!!!!!!!ギャウギャウ

ギャウギャウギャウ!!!!!!!ガルルルルルルルルルル」

「やめてぇぇぇぇ!!!!か弱い乙女を襲っちゃダメ!!怖いよぉぉぉぉ!!!!」

小さく、か弱い声でグレイスは叫んだ(?)超能力者でもない限り、いや、超能力者

でも聞こえないだろう。


ガブッ

「ぃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

今、私は黒犬の口の中だ。幸い牙は回避したがグレイスの身体はドロドロだ。翼は

べたべた。これでは飛べそうにない。

グルグルグルグルグルグル

犬は舌をクルクルと回し始めた。同じように私も回る。スーパーカーのタイヤの中

にいる感覚だ。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

突然、夏の厄介なカのような羽音がした。

「グァァァァァァ」

黒犬がめちゃくちゃ怖いあくびをすると、誰かに足を引っ張られ、そのまま地面に

落ちた。見つかってはいないようなので、急いでインテリアの中に潜り込んだ。

「私は伯爵ですからね。コウモリになっても痛めつけないでくださいよ。では、

これにて失礼。あ、あとカフェ開いてるんでぜひご来店ください」

(マスターだ――)


いつもの人間(?)姿に戻ったルイクルはそのまま走って引き揚げていった。

(フゥッ。正直、普通のドラキュラ姿が一番『人間モドキ』って言っていいとこ

だよね・・・・・)

人間モドキのことを考えるとおかしくなって吹き出した。

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