3,『彼・彼女と2本ストロー』付きジュース

 ビルは久しぶりの散歩と言うことで気持ちよさそうに走っている。私はムチでは

なく羽でビルの前膝を叩く。

「ヒーヒーホーヒーホー」


この声はビルが気持ち良い時に発する声だ。私の故郷、ヨーロッパやでは

ロバはよく「ヒーホー」と言う鳴き声となるらしい。私の自慢のロバは欧米生まれ

だからか、「ヒーホー」っぽい「ヒーヒーホーヒーホー」を身に着けたようだ。

ああ、私と初めて出会った時には「ヴァァァァァァァァ」と鳴いていたよ。

こいつと出会ってしばらくした時に「ヒーホー」を身に着けたのだ。


パタパタパタパタ・・・・・

(?!)

感じる・・・・・これはグレイスからのSOSだ。私の自慢の黒羽が震えている。

「客が来ましたよ!どこにいるんですかマスター!早く帰ってきて・・・!」

グレイスの叫び声が聞こえる。今頃接客してくれているのだろうか。

「しかたない」


バサバサ

ビルの耳元の風邪をおくってカフェに引き返した。「愛を深めて❤人血&イワシの

ウロコのパフェ」を何としても食べてもらわないといけないのだから――


 私はいつも通り、客を屋外の2人席に誘導した。万が一のために少し屋台からは

離れた場所に置いておいた。いつもならそこの席の客にはうちのマスコット、

ビールロバの「ビル」を目にすることになるのだが・・・・・

「やっぱりマスターはビルに乗っていったか・・・・・」

あの2人はまだメニューを話し合っている。


ブルブルブルブル

(来たっ!!絶対マスターからだ・・・・・)

「ウェイトレスさん、お願いします」

羽にやってきた「テレパシグナル」はルイクルのシグナルではなく客の

「オーダープッシュボタン(注文ボタン)」だった。

「やれやれ・・・・・」

仕方なく前かがみになり「テレパテレグラフ(テレパシーの内容を詳しく見られる

電信のこと)」を見る。ふん・・・・・なになに・・・・・・


ペチン!!!!

電信より先に脳の「電気信号」がやってきた。それは「痛み」の電気信号であった。

誰かに尻を叩かれたようだ。

「おい。誰か来たんだろ。私が行くよ」

「マスター。どこ行ってたんですか・・・・・」

マスターは三角形の小さな歯をきらりと光らせ、目を細めた。


 というわけで、席にビルと一緒に注文を確認しに行った。

「いらっしゃいませ。HOT♡THE☆Dracula・Cafeへようこそ。オーナーの

ルイクルです。あなたたちの名前は」

「なあ、あんただいぶ来るの遅かったぞ。ボタンを押してから3分は経ってたよな」

「まあ、オリバー。仕方ないじゃないの。ああ、私はオリビアって言います。

これはオリバーって言います。恋人が生意気ですみません」

「あ、ああ・・・・・すみません」

オリバーを名乗るピエロは「恋人」と言われたのがハズかったのか顔を人血スープ

と同じくらいに赤くした。

「ええ、分かりました。初のご来店ですね。真に光栄でございます。さて、今日は

何をご希望でしょうか?」


このように、それほど深すぎない敬語を使うのが客と店の距離の秘訣である。

普通の店のように敬語を使いすぎると相手の調子を狂わせてしまうからだ。こうする

ことでよりリラックスできるのである。


「え~っと・・・・・」

オリビアを名乗るピエロは迷っていた。

(この客、注文も考えてねぇのにボタン押したのかよ)

そのように少しイラっと来たが顔には表さなかった。

「あの、『彼・彼女と2本ストロー』付きジュースを1つお願いします」

「了解しました。すぐお持ちしますね」


『彼・彼女と2本ストロー』付きジュースとは人血を少々と大豆と麦芽でつくる

汁。そして「炭酸水素ナトリウム製造機」で作る炭酸飲料の吹き出した泡を再利用し

それにカラフルな花で色を付けたものである。今日のバレンタイン版は

「2本ストロー」という21世紀の流行りを取り入れたものを販売している。

(そんなことより、「愛を深めて❤人血&イワシのウロコのパフェ」を注文して

ほしかった・・・・・)ちょっとしたた落胆を持ちながら屋台へと急いだ。

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