2,ビールロバに乗って客探し
フゥゥ。小さなロウソクの火も消せなさそうな溜め息を吐いた。グレイスが飛んで
行って多分45分は経った。なのに、客は来ない。こんなことは自分が生まれてから
初めてである。
「こうしちゃいられない」
ルイクルは決心した。自分から客を探しに行こう。そっちの方が手っ取り早い
だろう。店番をどうするかを考えたが経験上、外出中にバイトが何人か来てたから
どうせ今日も誰か来てくれるだろう。
『ちょっと出かけるから適当にして』
そう、書き残しをして隣の小屋に向かった。
「ヴァァァァァァァ」
「よしよし。今日はお前に乗ることができるぞ」
ルイクルは目の前の物体に話しかける。
「ヴァァァァァァァァ!!!!」
「興奮すんな。そうすると事故る」
「ヴァァァァァァァァ♪♪」
「よし、分かった。行こう」
そう言うと、大きな舌でルイクルを首筋から髪まで撫でた。
パカラパカラパカラパカラ
私は伯爵(元?)らしく荒野を駆ける・・・・・。相棒の馬にニンジンをやり
ながら戦場を目指す・・・・・っていうのはまたまた妄想でございます、
本当はボロボロのがれきの上を走ってます。そして、目指すのは宿敵が待つ
戦場・・・・・ではなくうちのマネーとなるお客様でございます。
そして乗っているのは伯爵に似合う白馬・・・・・ではなく灰色の不通にいそうな
馬、ではなくロバ。
「よし、そのまま行け!!ビル!!!!」
ロバの名前はビルと言う。その名前の由来は「ビール」なるものにある。現在は麦
よりも豆類の方が注目が集まっているが・・・・・。そして、なぜビールなのか。
それは・・・・・こいつも怪物だからだ。「ビールロバ族」のものだ。「ビール
ロバ」はルイクルが本当の意味での伯爵だった同時代に生きていたものだ。
Germanyの酒場で酔っ払った下民ども。どこからかロバが現れ、その酔っ払いに
のっかる。そして、なんとか家に帰るとロバはさいごに脇腹に一蹴りを入れて
走り去る・・・・・・・。
ルイクルが出会ったときはすでにドラキュラとなった時代だ。人血ではなく
久しぶりの赤ワイン(本当だよ)を飲み、ビールも飲みと完全に酔っぱらった
わけでフラフラしながら帰路に着くとロバが乗っかった。それがビルだ。そこから
少しの間、象を担いで歩くような思いで帰路をたどった。だが、気づいた。
(小さくなっちまえば逃げ切れる)
というわけで、ルイクルはコウモリになり、ビルを振り切ったというものである。
それをきっかけにビルはルイクルの相棒となり今に至る――
というものだ。
「よし、そのまま行くぞ。まずはA-1だ」
そのころ、コウモリとなって客を探していたアルバイトのグレイスは《《客を追跡
していた》》。客と言うほどでもない生意気ピエロとその恋人らしきものがカフェに
向かってゆったりと歩いていたからだ。
(こうしちゃいられないよね。先回りしておかないと・・・・・キャッ!!)
強い風にあおられて小さなグレイスはどこかへ吹っ飛ばされてしまった。
(くっそー。早くいかないと!私の成績が低くなっちゃうよぉ)
歩いているピエロ2人は何も知らずにカフェへ向かう。
「あ、あそこ。あそこに屋根が見えるよ!」
「本当だ。案外雰囲気良いじゃねぇか」
グレイスは遅れて彼らを追う。先程まで2人を追跡していた一行はどこにかくれんぼ
しているのか。どこか見えない。
「スピードアップ!!」
グレイスはスピードを上げると一気にカフェにたどり着いた。
(え・・・・・いないじゃないの!!)
というわけで、急ピッチでテレパシーを使ってマスター、ルイクルへ向けて
発信した。そして、2人が付くまでの間に急いで普段の姿に戻り、エプロンを
つけた。
だが――それよりも先にピエロはいた。
「適当にやっとけってどういう意味かな?」
「知らねぇ。適当に食べとけって意味じゃね?」
「そんなわけないでしょ・・・・・」
「い~らっしゃいませ~!!」
グレイスは水たまりができそうな量の冷や汗を身体に流していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます