1,グレイスの空飛ぶ客探し
さてさて、今日もがれきの上のさわやかでホットなHOT♡THE☆Dracula・cafe
営業開始と行こう。
と、思った矢先、今日は珍しくお客が来ない。この「バレンタイン」なる
1000年前くらいのイベントの日だから、「愛を深めて❤人血&イワシのウロコの
パフェ」や「タンポポエキスとカボチャエキスを混ぜたうまうまシェイク」の2品
を従来のメニューに加えて出すというのに。ついでに、ラブラブカップル用に
「葦と竹でできた2股ストロー」を用意したのに・・・・・。
2000年代で言うと料理の中に普通の葉や虫でも入っていた店のようだ。
そんな不手際があったならまだしも、うちには不手際など一つもない――はず。
こうなったら、私の必殺技を使って客を探しに――
「こんちゃ~!!悩み事でもあるんですかー?」
その明るい少女の声は――アルバイトにきている私の弟子だった。名前はグレイス。
「やあ、グレイス。今日は珍しく遅いな」
「マスターこそ。開店2時間は経つのに、誰も来ませんよ?マスターがコーヒーと
血の仕込みも終わってボーっとしてるなんて珍しいっじゃないですか。そうなると、
どうせ客が来ないんだろうと思ったんですよっ!」
「さすがだな、グレイス。この通り、バレンタインのカップル席はもちろん、
常設席もガランガランだ」
そんなこと、開店以来、いつぶりだろう。
「それで、マスターが客を探ろうと思ったんでしょ?マスターはいつ客が来ても
いいように備えといてくださいっ。私が行ってきます!!」
「いや、お前にはやってもらいたいことが・・・・・あったのに」
文章で表すと、点が続く場面。少し言葉をためている間にグレイスは出て行って
しまった。
久しぶりに翼を広げた。いつもは、あのキャンプからよく客が来るのだ。だから、
あそこに忍び込めば、客の動向を探れる。
「お前!!!!せっかく来てくれたのになんてことを!!!!告る
チャンス・・・・・だぁっ」
ピエロが怒りの表情で顔を赤くしていたが、今度は顔は赤いまま、恥の赤に顔色が
変わった。先程までしわを寄せていた目の前には、体が半分透けているものが。
「
オーナーのような服をまとった骸骨が、ピエロの肩に手を置いている。そのまま、
2人がもめていたが、急に落ち着いたようだ。
それから、ピエロが透けたやつに何か話すと、外に出た。
(フフフ。さっき、あの図体がデカい生意気そうなピエロ、『告るチャンス』って
言ってたよね。ってことは、来るんじゃないかな?)
そう思って、グレイスはやつを追った。
「あいつら、なんか俺のことをすげぇじろじろ見てくるんだ。おかしくないか?」
「人気者ってことなんじゃない?カワイイオリバー君っ」
ピエロはオリバーというらしい。あやつのどこが可愛いのかは私にはまったく
わからないんだけど・・・・・。そして、オリバーはさっき「カワイイオリバー君」
といった、ピエロに寄り添って歩き始めた。
(あの生意気ピエロ、あのおちゃめなピエロに恋してるのね――?)
「黙ってついてこい」
ん?さっきのは、生意気ピエロとは違う声だった気がして、体を反転させて裏を
向いた。そこには、さっきの透けたやつと、顔がオオカミになってるの、そして、
オーナーのような立派な翼・・・・・というほどでもない黒羽を持ったものがいた。
彼らはカメラを持っている。さっき、「オーキュンのパパラッチをするの?」と
キモイ黒羽が言っていたので、やつらはピエロカップルを撮っていると見える。
「ねえ、オリバー。私、あのカフェ行ってみたい。さっきも言ったでしょ?」
「いいぜ、行こう。あのカフェ、たまに出てるけど、言ったことねぇな。変な料理
ばっか出してるらしいから正直行きずらかったんだ。オリビアが一緒なら安心だな」
あのお茶目ピエロはオリビアと言うらしい。それよりも、多分、彼らはうちに
向かっている。「変な料理」って言ってくる生意気野郎には来てほしくないけど。
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