第三話 分断と前進
大きく両腕を振りかぶる暗殺者!
ユアを相棒へと押しつけて、反射的に俺は地面を蹴る。
逃げ惑う人々へと降り注ぐ、不可視の
「二度も俺の目の前で、
「不殺! なんとも偽善的な信念ですね! そんなことで守れるものがありますか? たとえば――こちらの少年など!」
吹き付ける殺意の風向きが変わり、
刹那の後、不可視の〝糸〟によって網目状に切り裂かれる大地と空間!
ユアは――
「姫君を守るのは、騎士たる貴様の役目だろう、レイジ」
「助かったよ、エウセスカ……」
文字通り身を
すれ違いざま拳をぶつけ合って、彼は俺にユアを、俺は彼に感謝を
「オフェンスの交代だ」
「心得た。ならば私は、対敵を喰らい尽くす悪鬼となろう」
「楽しそうな寸劇ですねぇ……!」
周囲の人々が逃げ切ったのを確認し、吸血鬼としての本性を開放したエウセスカは、飛来する攻撃を霧化して回避。
そのまま結集し、パイプの上を疾走するノーフェイスへと
「
「そう邪険にするな。私の素性を知れば、否応なく殺したくなるぞ?」
「私こそ〝
「……! なるほど、百年以上前、ボクたちを裏切った
ノーフェイスが、両腕を鋭く左右に振りぬく。
放たれる殺意。
エウセスカの全身が百の肉塊へと分割。
漆黒の
「サァヴィッヂ様にたてつく者は、万死! ここで死に絶えてくださいね……!」
「貴様程度が、私を殺しきれるものか」
「なっ!?」
彼の眼前で血煙と化したはずのエウセスカが、人間大の〝
吸血鬼。
他者の命を対価として咲き誇る、不死者の
その肉体は、もはや並大抵の暴力では殺し尽くすことすら出来ないほど、異形へと変貌していた。
黒狗が、うなり声と共に巨漢の暗殺者へと飛びかかり、その喉笛を食いちぎる。
絶叫をあげるノーフェイス。
だが、次の刹那、血を吐き出したのは黒狗のほうだった。
飛び退くエウセスカの腹部が爆発し、大量の血液と共に、ナニカがこぼれ落ちる。
それは
肉塊はドロドロに溶け腐ると、やがてノーフェイスのほうへと吸い込まれていった。
屈強なる暗殺者が、顔色一つ変えず、五体満足で
脳裏で常時演算していたトランス能力者の照合が完了。
「エウセスカ! ノーフェイスの渇望は〝写し身〟だ、いまのはボマーの――」
「――解っている! ボマー・ゼーのトランスを写し取ったというのだろう!」
ヒトの姿に戻った相棒が、日頃から悪い血色をさらに青ざめさせながら応じる。
そのときには、不気味は笑みを湛えた暗殺者が、こちらへと肉薄。両腕が間合いの外で大きく波打つ!
反射的に抜刀すれば、〝糸〟が剣にからみつき――爆発!
トランスを複合的に扱えるというのか!?
「いや、そもそもこの〝糸〟の正体は何だ? この柔軟性、無限にも思える射程、強靱さ――」
「考える前に、貴様はユアを守って目的地へ急げ」
エウセスカは再び狗の姿となり暗殺者へと躍りかかる。
なぜかこちらをあっさりと見逃し、相棒との戦いを始めるノーフェイス。
強い違和感。
なにか、何か重要なことを見落としているような――
「レイジ! いこう!」
ユアが腕の中で叫ぶ。
そうだ、いまはこの少年を、安全な場所へ連れて行くのが先決だ。
「相棒!」
「任せていろ。貴様を他の誰にも殺させはしない!」
頼りがいのある冷たい声音に背中を押されて。
俺は、その場からの離脱を決行した――
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