第閑話 白の城たる栄光のサァヴィッヂ
暗黒のなかで、ノーフェイスはただ、
光など差し込まない奈落の底。
しかしそこで、純白の存在が、玉座へと腰掛けている。
『それで、どうだった、ノーフェイス。レイジは健在だったか?』
響くは玉音。
低く、重い、雷火にも似た声。
少なくとも、ノーフェイスにとっては、耳にするだけで全身が震え上がる、絶対者の言の葉だった。
「はっ……たいしたことはありませんでした。ボクに一刀を突き立てることが精々の、常識に囚われたトランス能力者――がぁっ!?」
暗殺者の喉が凹んだ。
玉座の主――白の騎士が、僅かに右手を掲げたことで起きた、超常の現象。
頬杖を突き、視線すら向けることなく、騎士の王が、告げる。
『おまえごときが、レイジのなにを理解できる……?』
「お、お許しくださいサァヴィッヂ様! どうか、平に、平に……!!」
咳き込みながら命乞いをする燕尾服の男を、それでも騎士王――サァヴィッヂ・オブ・ホワイトライダーはしばらく無言で吊り上げていたが。
やがて、思案の表情とともに右手を下げた。
暗黒の中へと投げ捨てられたノーフェイスは、二度三度バウンドすると、盛大に咳き込みかけ――それを必死で飲み込んだ。
尋常ならざる殺気が、暗黒の中に満ちていたからだ。
ほんの一呼吸、
『我から与えられる死が恐ろしいのか? おまえごときに割く殺意など、持ち合わせていないのだがな?』
「――――」
『……よかろう。いまは気分がいい。ここにおまえが戻ったということは、レイジが不殺という下らない信念を貫けている程度には無事であるということだ。レイジ、ああ、我の愛しくも
くつくつと、泥を煮立たせたような声音で、白の王が
その視線は、遙か彼方の地上、
『諦観に支配された記憶を封じ、己の存在意義を見失わせ、炎と爆破で恐怖を与え続ける計画だったが……いいだろう、変更しよう。我は場当たりが好きだ』
「――――」
『ノーフェイス。おまえが我の手足を名乗るのなら、仕事をやり遂げてみせろ。ユア・ピューピィ。この殻の世界を突破する鍵の一つ。大切で、素晴らしく――有用な存在。使いどころがある。ボマーに変わって可能な限り追い詰め、その精神を解放させろ。やれるな?』
「――はっ」
ようやく。
そこでようやく、ノーフェイスは声を出すことが出来た。
御意と答えることこそが、命の保証に繋がることは間違いなかった。
やがて、白き騎士王は闇の名に消える。
眠るように
しかし、騎士王が去ってなお、ノーフェイスは顔を上げることが出来なかった。
ただ、ブルブルと震えていた。
恐怖からか?
違う。
それは怒りだった。
彼は、王の命令であれば喜んで死を受け容れただろう。
だが、それができない理由もあった。
「あのガキ……レイジ・オブ・ペイルライダーならばともかく……あんなクソガキにサァヴィッヂ様が
ふざけるなと、内心で毒づく。吐き捨てる。
彼の心の中で、黒い炎が燃え上がる。
ギリリと、奥歯が鳴った。
「殺してさしあげます……ボクが! この手で……! なによりもむごたらしく……! 全てを奪い尽くして……!」
ひとりの少年の、その命を奪うために――
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