第12話

「始まりは去年の今頃だったわ。


突然に犬鬼の群れが村囲んだの。

当然のように追い払おうとした。けど帰って来たのは追い払う為に出た冒険家たちの右腕だけだった。

そのあと、その奥から女の声がしたの。

『生贄をあと一人差し出せばこの村の安全を保障してやる。出せないならば村ごといただくだけだ』ってね。

それからは昨日話した通りよ。私の姉が連れて行かれて、次は私と言うだけ。

どう?帰る気になった?なら今すぐに荷物を纏めてこの村から出ていってちょうだい。助けようとだなんて考えるだけ無駄よ」


自分に言い聞かせるような口ぶりで彼女はひとしきり話終えた彼女の手は見るからに震えていた。


「わかった。って言って」


顔を上げて懇願するその目は潤んでいた。


「もう、なんだって言うのよ。こっちは覚悟を決めたって言うのに!

見てこの部屋。何にも無いのよ。あと三日程度の食べる物しかないの!

最後だから普段は買わないようなお茶を買ったわ。

良いお肉だって食べ終わった所なの!

優しくしてくれた人たちにだってさよならを言って来たのよ!」


僕にストレスをぶつけるみたいに彼女は叫ぶ。


「もうなにもないの」


それを僕は何も言わず受け止める。


「あんた達くらいじゃ太刀打ちできやしないんだから!」


きっとこれは彼女の不安だ。


「だから…だから………!」


「だから?」


「だから…私に希望を見せるような…顔しないでよ……!」


「それは無理な話です」


だから、僕はこれまでしてきたように答えを返す。


「………」


「僕らのパーティーは強くて運が良いんですよ」


「そんな程度じゃ……」


「一人はね、剣でもって前でバッサバサと切るんですよ」


「………」


「一人はね、魔法で端から焼いていくんですよ」


「………て」


「一人はね、銃を担いで的確に撃ち抜いてしまうんですよ」


「………めて」


聞きたくないと耳をふさいだ彼女は首を振る。


「僕はその横で皆さんのサポートをするんです」


「……や…めて」


「苦労をたくさんした冒険者一行なんですよ」


「………やめて」


「でも、その分とても良い結束でね」


「やめてって言っているのっ聞きたくない!ふざけないで!わたしに希望を見せない

で!」


それでも届いた言葉は彼女の叫びになって帰ってきた。


「いやです」


「っ……」


それでも、それでも僕の決意が変わらないと諦めた彼女は呆れたと言わんばかりに溜息をつく。


「ハァ…私にどうしろってのよ」


その目は生きるための目をしていた。


「当日の段取りを聞かせてください」


「それだけ?」


ポカンと何でもないような事を聞かれた様子でそれだけじゃないだろう。と、そうじゃないだろう。と呆気にとられたような不思議な表情を彼女はする。

もちろんそれだけじゃない。


「あと、当日は完全装備でお願いします」


「……あんたタラシって言われない?」


なんか目が据わりはじめているような……


「なんでかよく言われます」


「このアンポンタン!!!」


「あいたぁっ」


何故か頬を平手撃ちされた。解せない。



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