第7話

村の端まで来たところで痕跡を見失ってしまう。


「おかしいですね。このあたりに来たと思ったのですが」


目を上げると村外れにポツンと一軒の小屋が目に入った。


「おや?あの子屋は……」


ボロボロで人が住んでいるとは思えない小さいけど一応訪ねてみよう。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか」


コンコンとノックをすると中からこちらを物珍しそうに見るナイトメアの女性が顔を出した。


「もの好きな人ね」


「あなたは先ほどの」


「入って、騒がしくなるのは嫌いなの」


「しかし…」


女性の家に入ると言う事に躊躇していると苛立たせてしまったようだ。


「いいからはいって」


「はい」


部屋に入るとやはり狭い家だ。見るに二人か三人程度でしかないだろう。


「ご両親は……」


「いないわ。私を産んだ時に母親を殺したって父親は私を捨てたわ」


その言葉にはどこか憎しみと少しの寂しさが混ざっているように感じた。


「では、これまでどうやって……」


「姉さんよ」


「お姉さんですか」


しかし、この部屋を見るに今、住んでいるのはこの人だけのように感じた。


「ええ、売女と言われようと私を育ててくれたわ」


「それは…」


その事の重さに息をのむ僕を気にする事なく吐き捨てる。


「去年までは」


「今はどちらに」


「生贄にされたわ」


その目は全てを無くして諦めているように見えた。


「すみません、無神経なことを聞きました」


「いいの、知らなかったんでしょ」


が、その目は一瞬の事で次には平然とした目をしていた。きっと彼女の中では整理のついた事なんだろう。


「ええ、まあ」


でも、その寂しそうな眼を一度見てしまった僕にはどうにもその目はほっとけなかった。


「それに今年は私だもの」


「いいえ、今年は誰も犠牲にさせません」


「そう、期待しないでおくわ」


まともに拾われる事のない言の葉はそのまま沈んでしまう。


「おっと、待ち合わせにおくれますね」


「逃げた方がいい。と言っても無駄でしょうね」


「忠告と受け取っておきます」


今は彼女に顔を見せたくは無かった。


「バカなひと…………」


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