第4話 Break The World!! 2

 3:

「まあ、予想通りってところだねえ」

 セイバー2凉平が、けたたましい銃弾銃声の中でぼやいた。

 セイバー1こと麻人が、室内の石材を支配して作り出した壁に兵達がひたすら銃弾を撃ち込んでくる。

 麻人が凉平に聞いた。

「十分集まったか?」

 光の能力者凉平が、光の屈折を利用し、麻人の作った壁ごしに集まった兵の数を見る。

 一塊になっている兵達を確認して凉平は告げる。

「十分じゃねえか?」

「ならば行くぞ」

「おうさ」

 麻人が壁越しに、兵達へ向けて黒刀を向ける。

 凉平が両手を持ち上げる。

 そして詠唱する。

「「流れる星は――」」

 麻人の黒刀が形を変える――刀の形から解けるように、無数の糸に形状を変えた。

「「炎の如く」」

 凉平の手のひらから光球が溢れ出た。通路内が強い光で満たされる。

 そして二人は同時に放った。

「「流星斬!(シューティングセイバー)」」

 麻人の放った無数の糸――極細の刃が、盾にしていた壁ごと切り裂き、その奥にたまっていた兵達を切り刻む。

 さらに、凉平の生み出した光球から無数の光刃が放たれ、通路の奥にまでその刃を撃ち放ち、兵達が貫かれる。

 数秒にも満たない間の中で、大勢の兵達が全滅した。

 けたたましく鳴り響いていた銃声は無くなり、通路は静寂に包まれる。

 兵達の死骸の中を、麻人と凉平が堂々と進んだ。

 凉平が兵の残骸――ゴーグルとヘルメットが外れて露になった顔を眺めて毒づく。

「……胸糞悪りぃぜまったく」

「うるさい」

 麻人が答えた。短く、激しい怒気を押さえ込んだ声で。

 凉平は麻人の背中からでも分かる怒りの気配を感じて、肩をすくめた。

「ご立腹だな」

「とっとと行くぞ」

「はいはい」


 4:

「セイバーのほうは無事に通過したようだ」

 アックス1誠一郎がアックス2のシュウジに告げる。

 部隊名〈アックス〉の方は、苦戦していた。

 どんどん集まってくる兵達。誠一郎が通路の曲がり角に隠れつつ、手に持ったマシンガンで応戦する。

「アックス2!」

 誠一郎がシュウジを呼ぶ。

 だが――

「……ありえねえよ」

 シュウジは弱々しく答えた。

「敵が……敵が全部、那菜と同じ顔してるんだぞ。なんであいつらは簡単に殺せるんだよ……なんで平気で戦えるんだよ」

 シュウジのうつむく顔は、完全に怯えていた。

「シュウジ!」

「できねえよ! だって……だってあれらは那菜と同じ――」

「違う!」

 誠一郎が大声で否定した。

「あれはただの人形だ。あんなモノは那菜さんじゃない」

「セーイチ……」

「俺達は知っているだろう、本当の那菜さんを……分かっているはずだろう?」

「…………」

「お前の力が要る。今戦わないでどうする。覚悟を決めるんだ……戦え!」

 ぎりっシュウジが奥歯を噛み、拳を握り、自分を奮い立たせて――

 叫んだ。

「くっそがあああああああああ!」

 シュウジの叫びに応じて、雷の能力が開放される。

 大量の紫電をまとったシュウジが、通路のど真ん中に躍り出た。

「はあああああああああッ!」

 シュウジが突き出した両手から大量の電撃を放つ。

 集まっていた兵達――那菜と同型の人形兵が感電を起こし叫び声を上げた。

 目が焼けそうなほど瞬く電撃の中で、那菜の姿をした兵達が焼け焦げていく。

 放電が終わった頃には。じゅうじゅうと焼け焦げた音が通路内で響き渡っていた。

「ちくしょう……ちくしょう……」

 自分の作った惨状を見て拳を激しく握った。全身を震わせるほど悔しがるシュウジ。

 誠一郎はシュウジの肩に、静かに手を置いた。

「行くぞ、那菜さんが待っている」

「……ああ」

 小さく答えたシュウジの声は、泣きそうなほどに震えていた。 

「シュウジ……お前は優しすぎる。だが今は戦え……戦うんだ」

「分かってるよ、分かってるっての」

 

 5:

 私はただの人形。

 台駄須郎の研究成果を蓄積し、また培養製造したクローン人形へ自律行動を与え反映させる生体型情報端末。

 過去も思い出も何も無い。頭の中にあるのはただひたすらにのデータのみ。

 みんな――知っていたんだ。

 私が人間でない事を、麻人さんも凉平さんも誠一郎さんもシュウジも、みんな知っていたんだ……。

 だから言わなかったの? 言えなかったの?

 私がただの人形だったから、普通の人間ですらなかったから?

 同情? それとも優しさ? 哀れみ? 

 じゃあ何で私に優しくしたの?

 いろんな物を教えてくれたの?

 いろんな物を見せてくれたの?

 そんな私は、みんなに何をしたのか。

 何をしてしまったのか。

 

 私は誰でしょうか?

『誰なのだろう?』


 私は誰なんでしょうか?

『さあ? 誰なんだろうな?』


 私は誰なんですか?

『……誰、なんだろうね?』 

 

 教えてよ! 私は誰なの!

『は? そんなもん。俺は俺、お前はお前だ』

『自分が誰かなんて、今の自分がお前自身だろうが!』


 ダンッ!

 カプセルを内側から激しく殴りつけた。

 嫌だ!

 私は私だ!

「出して! 私をここから出して!」

 私は私でいたい!

「私は人形じゃない! データバンクなんかじゃない! 私は、私はこんな事の為にいるんじゃない! 私は嫌! こんなの嫌! 出して! ここから出して!」

 カプセルの壁を叩く、蹴る、手が痛いつま先が痛い。それでも、溢れ出る激情が止められない。

 シックスは僕たちの世界へ帰ろうと言った。

 だけどこんな世界認められない!

 自分がただの研究材料の一つで、ただのパーツの一つでしかなくて、研究目的のための一部分で命が終わるなんて、

 そんなの嫌だ!

 私は! 私でいたい!


「まったく、余計な感情を芽生えさせおって。ソーサリーメテオめ」

 台駄須郎が苛立たしげに呟いた。

「処分するしかないの」

「博士」

 シックスが台駄須郎を制止した。

「上でソーサリーメテオが近づいてきています、時間がありません」

「あん?」

 額にしわを寄せて、台駄須郎がサイクロプス――シックスを睨んだ。

「材料の分際でワシに意見をする気か? どっちにしろ、こんな出来で移植をしても、うまく働かん。失敗するだけだ、感情の入った計算機など使い物にならんわ。処分して別の物を使う」

「セブンでお願いします!」

「ふざけるな、代わりはいくらでもある。別の物を使う」

 台駄須郎が操作盤で、那菜のヘッドギアに仕込まれた麻酔針から、即効性の毒針に変更操作する。

「ワシはワシの作りたいモノを作る。ワシの研究を妨げる物は、誰であろうと許さんよ」


 いくら叩いてもカプセルの透明な壁は壊れない。

 叫びはどこにも届かない。

 激しい感情が流れ、無意味に散っていく。

 どうにもならない。

 誰か……

 誰か!

「誰か助けて! こんな世界! 壊してええええ!」

 その時――

 この最下層の天井が、大きな衝撃と共に崩れ落ちてきた。


 6:

 天井だった瓦礫と共に、シックスとセブンと同型の人形達がばらばらと降り注いでくる。

 そんな中で、猛スピードに落下してくる人影。

 セイバー1――麻人だった。

 着地と同時に黒刀を地面に突き刺し、唱える。

「叫べ! その咆哮と共に全てを屠れ! 振動破!(アースシェイカー)」

 麻人を中心に地面が激しく振動が起こる――蜘蛛の巣状に地面が割れ、さらに激しさを増し、地面が巻き上がる――地面が叫ぶが如く崩れていった。

 

 一方で、身を自由落下に任せたままのセイバー2凉平が、両手から無数の光球を作り出し唱える。

「流れる星は炎の如く! 流星斬!(シューティングセイバー)」

 無数の光球から一斉に光の刃が放たれ、同じく落下していたシックスゼブン型の兵達を一気に貫く。


 数瞬遅れて降りてきたアックス1とアックス2――誠一郎とシュウジ。誠一郎が淡々とした口調で唱える。

「今ここに我が意思を持ってその力を示す、我が意思は全てを持って破壊とする、我を妨げる物に等しき破滅の雨を降らさん!」

 誠一郎の第二呪文(セカンドスペル)が発動する。

「我が意思の雨!(ジャスティスレイン)オン、フレイム!」

 フレイム=A=ブレイクから受け取った炎の能力を開放する。誠一郎の両手から、凶暴な炎が解き放たれた。

「はああああああああああッ!」

 シュウジが叫ぶ。ソーサリーメテオから与えられた雷の能力を全力で開放。

「爆炎(ファイア)」「爆雷(サンダー)」

誠一郎とシュウジが同時に詠唱する。

「――陣!(ストーム)」

 炎と雷が、室内に破壊の嵐となって駆け巡る。


 7:

 地が裂け、光が全てを駆逐する。炎が全てを焼き払う。暴れ回り疾走する雷が破滅を轟かす。地が光が炎が雷が全てを破壊して行く。

 世界が壊れる。

 形ある物が崩れ、積み上げられた物が焼き払われ、止まぬ光が全てを貫き、雷鳴がただひたすらに雄叫びを上げる。世界が壊れる。

 ただひたすらに壊れていく――


 地が叫ぶのを止め、光が消え、炎が収まり、雷が過ぎ去った頃。

 辺り一面は瓦礫の原になっていた。

 全てが壊れている。破壊の後だけが残っている。

 破壊された瓦礫の荒野に、さらりとした風が静かに吹いた。

 めちゃくちゃになった大地とは裏腹に、空には小粒の星が無数に瞬いていた。

 そして目の前には、私の世界を壊した四人が、

 こちらを見て立っていた。

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