第4話 Break The World!! 3
8:
「体内調整(キュア)」
静かに呪文を唱えた誠一郎さんの体が盛り上がる。筋肉が膨張した体一つで、カプセルごと埋まっていた私を引っ張りあげるどころか、持ち上げて立て直す。
「ふっ」
麻人さんがひと呼吸を吹いて黒刀を振り、カプセルだけを真っ二つに切り裂いた。
飛び散った培養液と共に私の体も外へ投げ出される。
瓦礫の中で尻餅をついたままヘッドギアを取り、呼吸器も取る。
外の空気は、土埃まみれの空気だった。
みんなは、任務でここに来た。
静かに落ち着いて、聞いてみる。
「私を……殺すの?」
そうだよね。
私はみんなの敵なのだ、抹殺するべき理由が十分にある。なんといっても、私の頭の中には、台駄須郎の研究成果という情報が詰まっているのだから。
しんと静まり返り……それがじれったくなったのか、凉平さんがみんなの顔を見てポツリと言った。
「どうする?」
――え?
シュウジが腕を組み、なぜか大威張りで言い切った。
「俺は嫌だね!」
凉平さんが小さく「お前は子供か」とツッコむ。
「ああそうだよ、どーせ俺はガキだよ! 俺はごめんだね!」
シュウジの発言にあっけにとられてしまった。
「……ふむ」
誠一郎さんが仮面を付けたまま、顎に手を当てて思案する。
「ではこうしよう。俺達は〈アックス〉の人間だ。本来命令を受けるのならばアックスのリーダー。エア=M(マスター)=ダークサイズ……鈴音から受けるものだ。部隊名〈セイバー〉の任務命令を聞くのはお門違い。って所でどうだろうか?」
「おっし! それ乗った!」
シュウジが誠一郎さんの案に指を弾いて同意した。
「じゃあ、俺達はどうする?」
凉平さんが麻人さんに聞く。
「あのブレイクを言いくるめるには、どうすればいいのか……」
「ならよ、抹殺するのはナンバーセブンって言ってたわけで、南波那菜を抹殺しろとは言われてない。ってのはどうよ?」
「そんな揚げ足の取り方では難しいだろうな」
「んじゃあ帰りがてらに考えるとするか」
「無理だと思うがな」
眉根を寄せて、麻人さんが本当に困った顔をしている。
「なんだかんだ言ってもよ、お前だって那菜ちゃんを殺すのは反対なんだろ?」
「うるさい」
馴れ馴れしく肩に腕を置いてきた凉平さんに、麻人さんがその腕を払う。
この人たちは……
「なんで」
みんなが私を見る。
「何でみんなそんなに優しいの?」
誠一郎さんが肩をすくめた。
「まあ、俺達はもんなものだ。戦士にも兵士にも、暗殺者にもなりきれない、中途半端なんだ……それに、叱られる事には慣れている」
麻人さん凉平さんシュウジが同時に言った。
「「「それはお前だけだ」」」
「むぅ……」
シュウジが拳を手のひらに当てて宣言する。
「おっし、こうなったらストライキだ!」
誠一郎さんも頷いた。
「うむ、いくら上がどうこう言っても下が動かないのならば組織は機能しない。ストライキだ」
「いいねえソレ、俺も乗せろよ」
凉平さんも入ってきた。
「お前らそれで本当にいいのか……」
額にしわを寄せすぎて、額に指を当ててうつむく麻人さん。本気で困っている。
「は、はは……」
なんか、なんかおかしい。
なんでこんな情況でこんなこと言い合って、こんな事になってるの?
おかしいよ。
おかしいのに私、涙が出てるよ。
笑っちゃう。
涙が出るのに笑ってる。
「はは、ははははは……はぁー……」
笑い疲れた、泣き疲れた。もう何もかも疲れた。
だけどもう一度だけ、聞いてみようか。
「ねえみんな、私って……一体なんなの?」
麻人さんが簡潔に答えた。
「台駄須郎という男が作った人形だ。だけど、今こうして生きている。そして君は、生きていて良いんだ」
凉平さんがあっけらかんと答えた。
「そんなんどうでもいいさ、自分は自分で作って行くしかないんだって」
シュウジが前に言ったように、
「俺は俺、お前はお前だ。それ以上もそれ以下もない」
誠一郎さんが優しく答えた。
「正直なところ、君と出会って過ごした時間は短い……だが俺達は、君の笑った顔も、楽しんでいる顔も、怒った顔も悲しんだ顔も、みんな知っている……少なくとも、俺達は、南波那菜という少女を知っている」
この人たちは、本当に……。
「んじゃま、さっさと行こうぜ。撤収てっしゅうっと」
シュウジが着ていたマントを私に羽織らせてくる。
「ほら、立て」
シュウジが私の手を引いて、手を引かれて……私は立ち上がった。
「……うん」
がらり。
瓦礫の荒野に、崩れる音が鳴った。
その方向を見る。
瓦礫の中から、巨大な腕があった。
がらがらと音を立てて、腕、頭、体、足が這い出てくる。
それは対ソーサリーメテオ用に開発された生物兵器。サイクロプス。
シックスだった――
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