第1話Awakening―― 3

 6:

 ソーサリーメテオ

 裏社会――アンダーグラウンドの暗殺組織の一つ。詳細は不明。

 しかし、流れてきた情報……ソーサリーメテオと交戦したという声から、炎を出した、物の形を変えた、姿が消えた宙に浮いた水を操ったなど、まるで超能力かと思える不可解な現象が起こったという。

 頭の中で、思い出したかのようにそう記憶している。


 麻人さん凉平さんシュウジと四人で『ひなた時計』に戻ると、カウンターに座っていた誠一郎さんが、スツールに座ったまま出迎えた。

 彼も、ソーサリーメテオの構成員なのか?

「コーヒーメーカーを使わせてもらった」

 誠一郎が手に持っていたコーヒーカップに口を付ける。

「那菜さん、座るといい」

 隣のスツールを指して、誠一郎さんが促してくる。

「はい」

 体が疲れていたのか、スツールに座ったとたん、足腰肩が重くなった。

「足、怪我をそしているのか」

「ええ、はい」

 この誠一郎さんも、さっきの麻人さん凉平さんシュウジのように――

「シュウジ、おしぼりを」

「おう」

 もうすでに分かっていたのか、カウンターの中からシュウジが湿ったミニタオルを取り出して誠一郎へ放り投げた。

 それを受け取り、スツールを降りた誠一郎は、丁寧に私の足を拭く。

 汚れていた足が綺麗になり、とたんに足の傷が染み出す。

「今治そう」

「はい?」

 誠一郎さんが、傷だらけになった私の足を手で包み。

「ヒール」

 そう呟いた。

「あっ」

 自分の足――足を包んでいる誠一郎の掌から、温かく優しい緑の光がこぼれだした。

 落ち着くような、安心するような緑の光。

 数秒その発光が起こって、消えた後で、私の足の傷がすべてなくなっていた。

 足の指を動かす、足首をひねる、痛みもなくなっていた。

「これが俺の能力だ」

 ソーサリーメテオの不可解な現象。

「俺は治癒のだ、このくらいの傷は容易い」

 そういえばリザードと戦った時も、突然に石の壁が現れたり、銃口が不自然に強く光ったりもしていた。

「もう、俺たちの正体に気づいているのだろう?」

 カウンターと対面になっているボックス席に座る、シュウジと凉平さん。

 隣のスツールに座っている誠一郎さん。

 カウンターの中でコーヒーを淹れている麻人さん。

「ソーサリー……メテオ?」

 四人が、無言の肯定をした。

 誠一郎が話をつなぐ。

「そうだ、俺たちはソーサリーメテオの人間だ。麻人と凉平は『セイバー』そして、俺とシュウジは部隊名『アックス』……ここには二部隊がいる」

 ふと、頭の中で別の疑問がよぎった。

(何で私は、こんな事を知ってるのだろう?)

 覚えた事も無ければ、今も私の記憶は失われたままだ。

 ひょっとしたら思い出せる事を思い出してけば、自分の失った記憶にたどり着けるのかもしれない……。もしくは。

「那菜さん?」

 誠一郎さんが呼んでくる。

「あ、はい」

 うわの空になってしまっていた。

 そうだ、そうだった。私が起きたばかりのとき、はぐらかされてしまっていた。

「皆さん」

 誠一郎さんとシュウジ、麻人さんと凉平さんの四人に聞く。

「私が誰なのか……知ってるんですよね?」

 しんと静まり返った。

 気まずそうな凉平さんの咳払いが一度だけして、

 カウンターの中にいた麻人さんが口を開く。

「俺たちは任務で、ある人物が起こしている計画を阻止するために……任務を受けていた」

 言葉の歯切れが悪い、麻人さんはまるで何かを隠しているような気がした。

「その任務中に君を発見した。経緯は分からないが、君は俺たちの任務に、巻き込まれてしまったんだ」

 なんだか、昼間の印象とは違って――冷たい。

 と、凉平さんが背中を小さく叩いて、内緒話をしてくる。

「昼間と印象全く違うだろ? あいつ実は頭がガッチガチに固い仕事人間なんだぜ」

「凉平」

 わざとだったのか、麻人さんに聞こえるか聞こえないかほどの声の大きさで言っていた凉平さん。おどけた調子でそそくさと逃げて行った。

「君が何者なのかは、正直なところ分からない。疑われても僕たちは君の事を何も知らないのは本当だ……月並みな言葉になるけれど、今の君が君自身であり、自分の力で見つけるべきなのだと思う」

 黙ったままでいたシュウジがぼやいた。

「説教くせえ」

「だよなー」

「……お前ら」

 ついでに凉平さんも同意してきて、また麻人さんが眉根を引くつかせた。


 このソーサリーメテオの人たち。

 先ほどのリザードたちと、ささやいてきた声の主。

 私の失われた記憶の在り処。

 分からないことが多すぎた。

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