『誠』の韋駄天

葵トモエ

序章 会津如来堂

〈登場人物〉

小幡(尾畑)三郎……『韋駄天』の異名をとる、元盗賊。新選組山崎丞の配下


近藤(島崎)勇………新選組局長


斎藤一…………………新選組副長助勤、会津新選組隊長


山崎丞…………………新選組諸士調役兼監察方


佐藤彦五郎……………多摩、日野本郷名主。脇本陣で道場を開いている


土方歳三………………新選組副長。佐藤彦五郎の従兄弟で義弟


りょう(良蔵)………多摩、高幡村の医師の子。土方歳三の小姓兼山崎の助手




 慶応4年(1868)9月5日……元号が『明治』と改元されるわずか3日前、会津、如来堂の回りは、新政府軍に完全に囲まれていた。如来堂の中には、新選組本隊と別れ、会津に残ることを決意した会津新選組隊長、山口二郎こと、斎藤はじめ率いる20名余りが立て籠っていた。だが多勢に無勢、勝敗は既に決しようとしていた。


 斎藤が死を覚悟したとき、お堂の床板がはずれ、ひとりの若者が顔を出した。

「三郎!」

新選組諸士調役兼監察方、山崎すすむの配下であった、韋駄天こと、小幡三郎であった。

「斎藤さん、こっちだ。まだ逃げられる」

三郎も傷を負っていた。血が流れている。

「いや、俺はもうここまでだ。お前こそ逃げろ。まだ若いんだ」

斎藤の言葉を聞いて、三郎は笑った。

「何を言ってんだ、大して違わねぇ。あんたは、ここで死んではいけない人だ。俺は、死んだ局長や山崎さんに誓ったんだ。斎藤さんは絶対に死なせねぇ、って。俺がやつらを引き付けておくから、ここを抜けて行ってくれ」

「三郎、何を言う?」

「俺が誰から剣を習ったか知ってるか?天下の近藤勇だぜ。天然理心流は、俺の中にも染み付いてるんだ。あんなやつらに負けるかよ」

三郎はそう言って、ニッと笑った。三郎の頭の中には、在りし日の勇の姿が浮かんでいた。

(勇先生……いつだったろう……あんたと初めて会ったのは……)



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