第4話 のじゃロリと神の杖
俺は手にしていた5メートルの鉄塊、大剣の態を取っただけの鈍器を宙高く放り上げた。ギュンッとすっ飛んでいく。高度にして10万メートル。
しばしの滞空後、俺はこいつを音速の50倍という極音速で大地へ突き落とす。パイルバンカー。簡易の
キンッと硬質の残音。鉄塊は地中を深く穿つ。
沈黙。
直後、超高熱を伴う局所的地震が寒冷の荒野を襲う。
高高度超極音速運動エネルギー弾。
逃げ場を失ったエネルギーは高熱を持ち、マグマ化した土塊を噴き上げる。
まるで火山噴火。
と、ほぼ同時にツタンなカーメンじみた変な黄金マスクを付けた、妙にアゴの長い巨人が地中より飛び出してくる。博徒のカ〇ジか貴様。出る作品が違うぞ。
「ミイラみたいな布ぐるぐる巻きエンバーミング加工がなされているが、胸には豪奢な……アレはなんと言うのじゃ? ほら、古代エジプトの貴族がつけているヨダレ掛けみたいな襟飾り。あと、腕輪も宝石まみれ。見た目がファラオっぽいのー」
「左様にございますねぇ」
「まあ、地中深くに埋まる司令塔とはなかなか面白き戦術ではある。しかし、その方は運が悪い。わらわと大地との相性は極大であるぞ?」
「はい。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAーッ!!!?
質量兵器、高所超極音速落下、それらが創り上げる莫大な破壊のエネルギー。
粘度の強いマグマと我が神気の相乗効果でファラオっぽい司令塔は苦痛にのたうち回っている。ふははっ、痛いか苦しいか。まあそうだ。痛いも苦しいも当然よ。
「焚き火に放り込んだミミズみたいになっておるの。なんだか、懐かしいのじゃ」
「お嬢様。ムシケラにはもう少し慈悲をお与えになったほうが……」
「若かりし頃の至りよ。そなたも捕まえた蛇を振り回して壁に打ち付けたり蛙の尻に爆竹を突っ込んで火をつけたり、ムカデをハサミでバラバラにしたであろ?」
「さすがに……ちょっとそれは……」
極寒地のはずがパイルバンカー効果で大地が溶けて灼熱地獄になっている。
そんな中、神気で結界を張って安全に身を守る俺たち。
極熱の溶岩に全身を焼かれ、苦しみにのたうち回るツタンでカーメンなアゴのやたら長い、ファラオっぽいクリーチャー。
「……存外、粘るの。質量とパイルで穿った上に衝撃を乗算、逃げ場を失った熱量は集中させてモンロー効果を与えたゆえ、点の威力だけなら局地核を超えるのじゃが」
「お嬢様、されば竜眼の使用を提言いたします」
「ふむ、そうだのー」
灼熱地獄の中、ファラオクリーチャーの死の踊りは続く。
業火に焼かれて悶絶するミミズ。
ダンス・マカーブル。
いずれあのアゴ長クリーチャーは燃え尽きて朽ちるばかり。
それは確実ではあるのだが……俺は小首を傾げ、竜眼にて鑑定をする。
~Tips先生からの、ここに注目~
おっ、Tips先生が鑑定にまで出張してるじゃん。俺は内心でツッコミを入れる。
『ツタン・ラムース・フォルストハイン・サンドロレメル。
レベル1760。呪属性。
漆黒のファラオの降臨を願った愚王の、その亡骸をベースに遺跡保全AIが作り上げた半怨霊・半機械化セントラル警備システム。
注目点。
漆黒のファラオ、または、黒き太陽の降臨は前文明崩壊原因の一つとされる。
注意点。
遺跡のセントラル警備システムは、ピラミッド効果により強制的に半死半生を保ち続ける。愚王はその罪の重さゆえ星の終焉を迎えるまで滅することが許されない』
「漆黒のファラオ、黒き太陽、とな? ふむ、嫌な予感しかせんの」
「はい、まさにおっしゃる通りですー」
「それはともかくとして、この某賭博漫画の登場人物みたいなアゴのそいつは、随分とえげつない償いを課せられておるようじゃな。人の分を越えた、生命倫理のぶち抜き。いや、保全AIとやらが勝手にやってしまったがゆえか」
「前文明の高度な技術が窺われますねぇー」
「うむ。何にせよ、アレが格別滅びにくいのはよくわかった。やんぬるかな、罪人とて冥府に落ちて死を完全に迎えれば罪は赦されるというのに」
俺はアゴクリーチャーに影響して自分のアゴをスルスル撫でた。
「如何なさいますかー?」
「ふーむ、あまり使いとうないが短めの権能で葬るとしよう。過ぎ去りし1万年の悔悟にて彼の者の罪科は雪がれた。そう、一神族としてわらわは判断する」
「お優しきはお嬢様。もっとも新しき、アタナシアを名乗りしお方。ああ、どうしましょう。ワタクシのイケナイ部分が濡れ濡れでございます……ッ」
「そなたのブレなささには、ホンット感心するのじゃ……」
俺は瞬時に意識を一点集中させる。
破壊と再生、死と生。絶え間なく続く自然の営みの権能――のはずの、ナニカ。
『滅せよ』
権能は紡ぐ言葉が短いほど強く表れる。大体10の発音以内に収める。10を超える発音は具体性が出る代わりに根源の力が弱くなる。安全性が高まるとも言うが。
真空。原初の混沌。真なるエナジー。底無しの深淵。無限に揺蕩う。
有限が唱える滅亡ではなく、無限が唱える真の滅亡。
「神は神たるに人を罰する権利を有す。それに伴う破壊と殺戮も権利の内。しかして権能は短ければ短いほど原初に近づく。怖いのじゃ。わらわは、わらわでいられるのか。……どこまで? ……いつまで? ……あるいは?」
「……」
「ふむ、戯言じゃ。わらわは既に自己の変遷の最果てにいる」
ツタンなカーメンなど、某カ〇ジのアゴだの、様々な言われようのかつての王の骸は、業火に揉まれてなお半死半生を続けていた。
が、俺の必滅のひと言により、速やかに存在そのものが抹消されていく。
そう、まるで煙が霧散していくように。
『アッ、アッ、アッ……。アリアリアリ……』
「アリーヴェデルチ?」
『アリ……ガトウ……ゴザイマス……カッ、カミサマ……。アリ……ガトウ……』
「うむ。
俺は腕を組んだ大上段スタイルで、かつての文明期の王を見送った。交わされた言語は当文明期のものでも前文明期のものでもなく『そういう意思』の交感だった。
「はうう……お嬢様ったら、強くて優しくて格好良過ぎですぅ」
「で、あるか」
「そして何より、ロリっ娘万歳なのですぅ」
「結局そこに辿り着くのがスクミズらしいのぉ……」
背後のスクミズが何やらモジモジしていたが、俺に抱きつくことで気持ちが落ち着いたらしく、戦闘アンドロイドらしくない人間くさい安堵のため息をついていた。
~次回予告~
遺跡に侵入する幼女。道案内付きで迷わない。幼女はすたすた歩く。
どうして侵入者の幼女に道案内がつくか。遺跡側の意図は何?
次の回もようじょようじょ
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