第5話 のじゃロリとTips先生の注釈

 俺たちは極寒地でありながら灼熱地帯と化したその場を回避して、目的のピラミッド型前文明期遺跡へと侵入した。入口は、結局は俺の竜眼で見極めていた。


 どうやら地下から出入口が伸びていたようで、しかしトドメ・ファイナルなパイルバンカーで肝心の一帯をめちゃくちゃに潰してしまったため新たに場を整備してそこからの侵入となった。まったく、何をしているんだか。



「うわぁ、何重にも保護の結界が張られていますねぇ。凄いです。だってこれ、1万年前から稼働しているのですよ? 発動ユニットだけ持って帰れないかしらー?」

「見かけたら持って帰るのも良いやもしれぬな。おそらくは相当に大きな設備となろうが。その場合はわらわが解析してもっと良いものを作ってやろうぞ」



 外は未だ灼熱で覆われているはずが、内部では寒くも熱くもないぬるま湯のような気温で保たれていた。具体的には20度前後。空気は清浄で、カビ臭さもない。


 俺たちは防寒着を新たに着直すことなく歩を進めた。


 俺は女児向けバレエドレスというか魔法少女みたいな恰好で。

 スクミズは旧スク水&エプロン姿で。


 かみそりの一枚も入らない、綺麗に加工された石製の細長い通路を俺達は行く。

 敵性反応なし。罠もなし。

 空気中に悪意のあるガスを混ぜても来ない。


 はてさて、この遺跡を守護する警備システムはどうなったのやら。


 遺跡には、敵の出る数種類のパターンがある。



1、遺跡内部に警備システムが全振りされているパターン。実は滅多にない。

2、遺跡の内外に警備システムがバランスよく配備されているパターン。

3、なんらかの都合で、遺跡外部にのみ警備システムが展開されているパターン。



 今回の遺跡は2番か3番となろう。ちなみに2番が定番のパターンである。


 セントラル警備システムのアゴファラオは俺たちに感謝しつつ消滅したため、たとえ2番であってもこちらに敵対せぬよう命令を加えている可能性もあるのだが。



 いずれにせよ油断はしないように行こうと思う。



 と、ここでTips先生からの連絡が。

 チリーンと脳内に鈴が響き、俺とスクミズの前に半透明のスクリーンが現れる。



『無事、遺跡内部に侵入できましたね。この遺跡は、かつては『誕生の揺り籠』と呼ばれていました。あなたの前世世界に存在するピラミッドの、真逆の立ち位置となりましょうか。アレは王や身分の高い者の埋葬に使われたりしていましたので。


 さて、そんなわけで内部には警備システムが厳重に配備されています。かなーり凶悪な部類がてんこ盛りです。タマを取りに来てますわ、これは。


 ですがひょっとしたらの話、愚王の成れの果てをあなた様が場合は少し違う結果になるかもしれません。どうでしょう、愚王を? そのとき、かの者はあなたに感謝していましたか?


 もし愚王があなたに感謝していた場合、警備システムはあなたたちにのみ攻性防壁反応を示さなくなる可能性があります。侵入者ではなく訪問者に変化し、それも親しき身内扱いとして。その場合は、なんらかの案内があなたにつくでしょう。


 そうして案内される『そこ』が、あなたの目的地となります。


 当然、あなたは疑問に思うでしょう。一体『そこ』とは『どこ』なのかと。


 それは、たどり着いてのお楽しみです。行けばわかるさ迷わず行けよ。ヒントは『誕生の揺り籠』です。さて何が待ち受けていますやら。頑張ってくださいね』



 明らかにクセモノ。外連味マシマシなTips先生からの連絡。


 ちなみにすべて日本語で書かれているため当世界民には解読不可能である。前世世界での習得難易度カテゴリー5+という極悪の日本語を読めるものなら読んでみろ。


 ときに。


 俺の言う『Tips先生』とは――正体は、まるで不明の存在だった。

 いや、そもそもが実体であれ虚体であれ存在しているのかどうかもわからない。


 そういう世界のシステムなのか、高度なAIなのか、あるいは中に人がいるのか。

 わかるのは、俺の脳内に棲み、を常に見守っているということ。

 悪意、善意、一切合切が不明であった。



 本来的にはTips先生、いわんや『Tips』とは助言やヒントを意味する。



 テレビゲームで例えるならプレイヤーが快適に遊べるようそのゲーム内独自の用語に注釈を入れたり、目的地への道のりを大まかに教えてくれたり、重要アイテムの解説をしてくれたりするお助けシステムのことだった。



 ちょうど良い。話の脱線ついでに――

 今から、この世界の秘密をほんの少し語ろうと思う。


 ここだけの話、この世界は『とあるゲーム』に酷似している。


 いや、待て。そうじゃない。そうじゃないのだ。

 ああなんだゲーム世界への転生かと短絡的に納得するのは良くない。

 断言しよう。

 俺はゲーム世界に迷い込んだわけではない。



 むしろこの世界こそ『とあるゲーム』の原型。アーキテクチャなのだ。



 俺の転生に関する細かい話は一先ず後回しにするとして、話を進める。


 おそらくはこの世界へ転移した日本人が――その『とあるゲーム』を作ったのはHNハンドルネームだけを公開する日本人だからなのだが、そいつが冒険して何かを達成して、元世界へ戻った経験を下敷きに話題の『とあるゲーム』を手がけたらしかった。


 ちなみにフリーゲームで、作成されて10年以上経っているのに未だアップデートされ、有志によるバリアントも含めれば数十種類のバリエーションがある。


 さて、ここまで引っ張ってそのゲーム名を語らないわけにもいかないだろう。

 俺も一時期ドハマりした時間泥棒ゲーム、それは……。



『The World of Athanasia』



 直訳すれば、アタナシアの世界、となる。




 ~次回予告

 幼女はローグライクゲームが大好きだった。

 幼女は気づいている。この世界の真実のひとかけらを。

 次回もようじょようじょ。






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