第6話 のじゃロリとThe World of Athanasia

『The World of Athanasia』

 

 アタナシアの世界。Athanasiaとは『古ギリシア語で頭文字のAは否定語。これにthanatos(タナトス、死)を加えて不滅』を意味する。直訳すれば、不滅世界。


 2Dオープンワールド式ローグライクゲームで、およそ現実世界で出来ることはなんでもできる。剣と魔法のファンタジー世界のため現実世界以上のこともできる。


 悪行から善行。世界の行状に関わらず、ただの市民として慎ましく生活するだけでも良い。楽しみ方は人それぞれ。エンディングを目指さなくても良いゲーム。


 

 冒険者として、無限に構築されるダンジョン巡りをするのも有り。

 怪盗となって世界中の財宝を盗みまくるのも有り。犯行予告も出来るぞ。

 魔術を極め、魔術学院の学長になるのも有り。ちなみに魔術と魔法は別物だ。

 非情な暗殺者となって闇の仕事に邁進するのも有り。ときには味方も殺す必要が。

 楽器を奏でて罵声と石を投げつけられるのも有り。最初の街のピアノ演奏厳禁。


 伝説の鍛冶屋を目指して修行するのも有り。付与魔術の組み合わせもアリだ。

 錬金術師となって賢者の石の夢を追うのも有り。人の命を触媒にしなくても可。

 付与術師としてあらゆる物に付与をしまくるのも有り。実はコイツが一番ヤバい。


 核爆弾を王都で爆発させるのも有り。もちろん、最初の……ごにょごにょ。

 神を召喚して世界を焼き尽くすのも有り。むしゃくしゃしたら神を呼べ。殺戮だ。



 市民、乞食、賞金首、冒険者、暗殺者、魔塔主、各種生産者、英雄から魔王。



 それこそなんでも。楽しみ方はアイデア次第。

 下手すれば1万時間は溶ける。

 昔流行ったMMO系ゲームネトゲ並みに性質が悪い。


 このゲームの最大の特徴は二つ。

 そしてそれは、この世界の特徴とまったく同じ。


 たとえ志半ばで死んでも、埋葬さえされれば自力で墓から蘇れること。

 この世界の現文明期は『エコー』という人の身体を蝕む波長が流れていること。


 二つ目の『エコー』は現文明たる『エターナルエコーズ』期に深く関与する事案なので、いつか必ず詳しく解説しようと思う。



「……先程から疑問になっているのですが、お訊ねしてもよろしいでしょうか?」

「うん? 構わぬぞ、遠慮せずに言ってみるがよい」

「現在、ワタクシたちはピラミッド遺跡内に足を進めています」

「そうだの」

「ずーっと真っ直ぐ歩いては、90度右に回り、時計回りに少しずつ降りていっています。だけでなく、時計回りの間隔は、少しずつ短くなっています」

「で、あるの」

「更には、いつの間にか、先導するように50センチ大のミニミニスフィンクスがトテトテと、ワタクシたちの前を歩いています」

「いつの間にかではない。わらわたちが内部に侵入し、Tips先生のスクリーン内容を読み終えてすぐに現れておったぞ」

「あまりに当然と歩いていたので、逆に気づけませんでした……」



 ふむ、と俺は一つ頷く態を取る。



「そなたの疑問に答えるとだな、あくまでわらわの推論ではあれど高確率で正解だと思われる話、この道は裏道であろう。本道は罠がてんこ盛りで危ないため、スタッフ専用道をあえて使用しているわけよ。なので、外回りでグルグル回っている」

「そうなのですか……」

「ミニミニスフィンクスについては見たままじゃな。わらわたちの案内係よ。考えてもみよ、見知らぬ単調な路筋を延々とグルグル歩くのは不安であろ? その不安を解消させるためにも、アレは先行してトテトテと歩いておる」

「何も起きないとはいえ……何も起きないからこそかもしれませんが、確かに知らない道をずっとグルグルと歩き続けるのは却って不安にかられますね……」

「気持ちは解消できたかや?」

「はい、とても。感謝です。……あっ、最後に一つだけ。その、ワタクシたちは、一体どこに向かっているのでしょうか?」

「さてのう。こればかりは導かれるままじゃな。害意はなさそうだし、まあ、少なくとも悪いようにはならんじゃろ。……知らんけど」



 第一、このクエストはTips先生独自のものであって、なろう系ラノベで頻繁に登場する冒険者ギルドに相当する、戦士ギルドや魔術師ギルドを介していない。


 内容も、要約すれば目的地へ向かい最深部へ辿り着けとだけ。


 外連味マシマシのTips先生である。それはもうただごとでは済まないとだけは俺も理解している。何せ、初登場時が核爆弾の贈呈……いや、まあ……うん。



「なんくるないさー、である。いざとなったら力づくよ」

「必殺のメガンテですね、わかります」



 そうこうしているうちに、とうとう最奥の中心部にたどり着く。

 半径3メートルほどの、ドーム状の小部屋だった。



「あうー。なんだか目がグルグルしますよ?」

「三半規管の耐久力に挑戦するくらい、時計回りしたからのう」



 と、ここで先導していたミニミニスフィンクスがスチャッと後ろ足で立ち上がってぴょいと跳ね上がった。ほぼ同時に、カチッと鍵が開くような音が。



「ほう……?」



 そういえば前世世界でのスフィンクスとは、元々は死を見守る厄払いの神話的存在であり、後には聖域の護り手と変化していった人面獣身の怪物だったと思い出す。



 となれば、アレか? 安易な考えを少し修正すべきだろうか?



 理屈ではない、直感らしきものが働いた。なるほど、この先には神々ですら躊躇するような何かが安置されている可能性も、踏まえたほうが良い気がする。



「スクミズよ。ここから先は気を引き締めよ」

「はい、お嬢様」



 俺は本体の竜神体に組み込まれた神気ジェネレーターを一部活性化させ、現行の竜人体に桁違いの神気を送り込み、循環、超高速化させていく。

 いざとなれば対消滅パンチを喰らわせてニアヘヴンどころか大陸北部を消滅させる心づもりを決める。後は知らん。野となれ山となれ。



「やはりいよいよアレですか? 至高なるメガンテお嬢様?」

「メガンテではない。メガルティナである。神族だけがアタナシアの名乗りを許される、メガルティナ・アタナシア・ゴドイルタである」



 どういう機構なのかは知らないが、かのちんまい四足人面獣身は封を解き、光の円柱をドーム小部屋の中心部に発動させた。うおっ、まぶしっ、である。


 そして、ドーム内は、あっという間に凄まじい光量で満ち――。




 ~次回予告~

 次回は閑話。幼女は出てこない。

 なんてことだ、至急幼女成分をどこからか補給せねば(焦燥)





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