第3話 オープニングだそうですが一体(ry

〜ぜんかいのあらすじ〜

〇月× 日。ぐそくえびかんさつえにっき。

きょうは ともだちの ちゃらくんと ぐそくえびを たおしに ぬまにきました。

きょうも ぐそくえびは げんきです。

〜あらすじおわり〜


 俺もゴテも、予想外の硬さに驚愕していた。

「ゴテの攻撃が効かない……!?」

 はっとしたゴテはグソクエビの甲殻を踏み台に器用に前宙し、再び大剣を叩きつける。

 しかしグソクエビにはヒビどころか怯む様子すらない。痺れを切らしたのか、グソクエビは重低音で絶叫しながら頭を大きく振り上げ、ゴテを払い退ける。

 ヒビすら入らないとは思わなかったゴテは放心しているようで、振り落とされても反応出来ないまま、沼に真っ逆さまに落ちる。

「ゴテッ!! まずい……!」

 あいつはカナヅチだったはず……!

 俺は急いで沼に飛び込んだ。

 水底へまっすぐに向かうゴテをすくい上げるように支え、水面へ上がる。

「チャラ……」

 ゴテの顔色は酷く悪かった。青白い顔をしてげっそりとしている。

 もしや、グソクエビの絶叫には、マンドラゴラのような呪いがあったのだろうか。

 冷や汗を流す俺に、ゴテは自らの耳を恐る恐る触りながら尋ねる。

「私……」

 俺は息を呑む。


付いてる……?」


「……」

 安堵 and 呆れの息が漏れた。

「すげーなげーのが付いてるから心配すんな!」

 グソクエビの様子を伺う間もなく、急いでその場を逃亡する。後ろで地面の割れる音が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。

 英雄一番の火力を持つゴテが敵わないなら俺には敵いようがないのは明らかだった。


「あの……チャラ。もう……大丈夫、だから……」

 抱き抱えたゴテの声に気づき、足を止める。沼はもう見えない。ずいぶんと遠く離れた森まで来てしまったらしい。

「あ、あぁ……悪ぃ」

 さすがに長時間抱えられるのは恥ずかしかったのだろう。少し顔色の赤いゴテを下ろし俺たちは少し休むことにした。


「……にしたって、ゴテの怪力が通じないって一体どうなってんだ?」

 焚き火の前で俺はびしょびしょの上着を脱ぎ、水を払いながら問いかける。

「……鎧がない、から。……たぶん」

 焚き火を挟んだ向かいの切り株に座るゴテは、ばつが悪そうに俯きながらボソボソと答える。ちらりとゴテに目をやると、リボンがよれて首元は大きく開き、鎖骨が覗いていた。ブラウスは濡れ、中のキャミソールが透けていたので、あまり見ないようにした。

「鎧? ゴテゴテだからゴテなのにゴテっぽくないとモチベ出ない的な?」

 そう言って、俺は納得するように首を縦に振った。

「たしかに俺もそこは朝からツッコミたかったポイントではあったけど」

「ちがう」

 ジト目で話をせき止められた俺は、鎧がないと力が出ないアンパンヒューマン理論が冗談でないことを悟る。

 俺は少し考えてから言う。

「じゃあ……鎧に身体能力強化の魔術がかかってるのか?」

 ゴテは首を横に振った。

「チャラは、いくらなんでも重戦士並の怪力エルフ、おかしいって思ったこと、ない?」

『あるある! めっちゃある!』と、漏れそうになった言葉はさすがに失礼なので適当な所に閉まっておく。

 しまわれたそれを知る由もないゴテは淡々と告げる。

「普通、エルフは身体のつくり的に、他種族よりもしなやかな動きが上手いから弓士が多いの。あと、魔力と調和しやすいから調和士とか」

「そんなイメージあるな、たしかに」

「私だって一緒。多少は鍛えてるけど他種族みたいな筋力はない」

 あると思いますよ、他種族以上の筋肉。

「……えーっと……なに、その怪力ってどこ産なの?」

「ばね」

 返されたゴテの言葉は2文字。

「ばね?」

 オウム返しする俺を一瞥したゴテは、焚き火をじっと見つめながら話す。

「身体をばねみたいに動かすの。勢いで力があるように見える」

「ふぅん……自分を支点にした遠心力みたいなものか? だから使う武器が重くて、さらに鎧で自重も重いほど威力が出る」

「そんなかんじ」

「――まるで振り子だな」

「ばね」

 決め顔で呟いた俺をゴテの言葉が遮る。

 俺的には振り子のイメージが絶対わかりやすいと思うんだけど……。

「ばね」

「何、心読んだ今? エルフパワー?」

「そんなかんじ」

 そんなかんじなんだ……。


「だから、ごめん」


 声のトーンが急に下がる。


「ごめん、なさい……」


 ゴテの目に映る焚き火は、実物以上に煌めき揺らいでいた。

「お屋敷壊して、仕事を無くして、そんな私のために仕事を考えてくれて、依頼も協力してくれて……期待してくれて」

 瞳の焚き火が崩れ、流れる。

「でも私は、なんにもできなくて、役立たずで、助けて貰って、力が出せないの、わかってたのに、言えなくて……だから、だから……」

「ゴテ」

 俺はゴテを真っ直ぐに見つめた。

「昨日俺と久々に会って、今日一緒に依頼に挑戦して。ゴテはどうだった?」

「……」

 ゴテはじっと俺の目を見た。

「俺は……楽しかった。それに、懐かしかった。バラバラになってからずっと、毎日同じことの繰り返し。困りはしないけど物足りない、そんな感じでさ」

 街の近辺で出会う危険な魔物は一通り淘汰され、猟では危険な魔物に会うことはなかった。

「でもゴテと久々に会って、ドロンにも会えて、馬鹿みたいなこと言ってさ。グソクエビ見た時はやめときゃ良かったって思ったし、ゴテの怪力が通じなかった時は死んだと思った」


「でも」と、俺は言葉を続ける。


「――昔に戻ったみたいで、楽しかったんだ」

 勇者が失踪するまでは、いつもこんな感じだった。あんなに鮮烈な日々を忘れることなんてできなかった。

「……だから、役に立つとか期待に応えるとかそうじゃなくてさ」

 ゴテに向かって手を差し出した。

「鎧が必要なら素材集めからしようぜ。もし戦力が足りないってんなら、元英雄のあいつらを片っ端から探して、無理にでも引き入れてやろうぜ。こんな世界じゃどうせ暇してるんだ。俺とお前みたいにな」

 俺はゴテに、めいっぱいの笑みを見せてやる。

 これは、猟師の俺じゃ出来なかった顔だ。


「一緒に冒険しようぜ、ゴテ。昔みたいにさ!」

 ゴテの瞳がきらりと揺らいだ。

「……うんっ!!」

 いつものゴテゴテじゃなくても、しっかりと握られた握手の強さは紛れもなくゴテだった。


「よし、そうと決まれば今日はひとまず街に戻って解散、明日から早速鎧の準備だな!」

 乾いた上着を羽織り、荷物を持って立ち上がった。

「あ……そのことなんだけど」

 そこで、ゴテは小さく手を挙げた。

「ん? どうした、ゴテ。あ、もしかして良い宿知ってんのか? 飯が上手くて風呂がデカいとこで頼むぜ!」

「いや、あの、えと……」

 ゴテの表情は普段とあまり変わらなかったが、ほんの少しだけ気まずそうに見えた。

「……宿、ない」

 沈黙。


 沈黙、のち、


「……は?」


 盛り上がりエンディングムードがプツンと切れる。きっとかかり始めたオープニングテーマも唐突に停止しただろう。

「……なんで」

「お金、ない」

 ゴテは淡々と答える。

「まじ?」

「まじ」

 ゴテのヒスイ色の目はマジだ。

「……まじ?」

「まじ」

 ゴテのマジ色の目はヒスイだ。

 俺は、頭を抱えた。

 もう、なんか、考えるのが面倒くさくなった俺は言った。

「……俺の泊まってる宿、来る?」

「いく」

 ふんす。鼻を鳴らすゴテ。

 一方で俺の出鼻を見てみよう。くじかれるどころか、複雑骨折している。

「ちょっとだけ、楽しみ」

 ゴテは表情には出さないが、わくわくと言わんばかりに小躍りしている。

「……まぁ、ゴテが喜んでるなら、いいか」

 チャリン、と金貨の入った袋を揺らす。

 音の高さと重さからして、部屋を2つ借りる余裕は無さそうだ。先が思いやられる。

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元英雄たちが再会したそうですが一体何が起こるんですかね…? ちだはくさい @Chief08

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